「私も一緒に行きましょう、何かあったときのために」暁美さんが提案した。
男性は頷いた。
暁美さんは男性が慌ただしく車庫に向かって歩いていくのを見て、パジャマとスリッパのままで着替える時間もなかったことに心の中で驚いた。もし一人の女性が、いつも冷静で自制心があり、几帳面な男性をこれほど慌てさせることができるなら、それは一つのことを物語っている。
林さんは氷川さんの心の中で軽くない存在なのだ。
T市の天気は変わりやすく、途中で雨が降り始めた。あいにく、病院まであと数百メートルのところで、前方で事故が起きて渋滞が発生していた。
男性は副席の林薫織を見やると、彼女が痛みで冷や汗を流し、唇が震えているのが見えた。眉をひそめる。男性の長い指が絶えずハンドルを叩き、細い目でフロントガラス越しに前方を見ると、前は完全に詰まっていた。普段なら泰山が崩れても色を変えない彼の端正な顔に、焦りと心配が隠せなかった。
ワイパーがフロントガラスを行ったり来たりしていたが、すぐにまた視界が曇ってしまう。車窓越しに、かすかに雨音が聞こえるが、氷川泉はそんなことを気にしている場合ではなかった。
男性はドアを開け、運転席から降りた。スーツはすぐに雨に濡れてしまったが、そんなことは気にならなかった。彼は車の前を回り、助手席に向かった。
暁美さんはそれを見て、素早く後部座席から傘を取り出して車を降り、氷川泉の上に差し掛けた。
男性は助手席のドアを開け、林薫織を車から抱き出した。暁美さんが傘を自分の方に傾けているのを見て、眉をひそめて言った。「私はいい、彼女の方を守って」
暁美さんはそれを聞いて、きちんと傘を動かし、林薫織の方に傾けた。
林薫織は痛みで死にそうになり、意識がはっきりしなかった。ぼんやりとした中で、誰かに背負われているようだった。その人の背中は広くてしっかりしており、歩みは速いが安定していた。
彼女はゆっくりと目を開けると、視界に入ったのは男性の後頭部だった。男性の髪は少し濡れており、冷たい水滴が彼女の顔に落ちてきた。
人は、体が最も弱く、最も苦しいときに、いつも心に思い続けている人を思い出すものだ。林薫織がずっとその人を心の奥底に押し込めていたとしても、このときは思わず自分の愛する人のことを考えてしまう。