第370章 執拗に絡みつく

林薫織はいつも通り普通に出勤し、会社、病院、半坂別荘の三点を行き来していた。あの夜、氷川泉が一体どんな風に吹かれたのか、自分の心の中に彼の居場所がまだあるかどうか尋ねてきたことを、彼女は理解できなかった。しかし振り返って考えると、それは実に滑稽なことだった。

5年前、彼女は真心を彼に捧げたのに、彼はそれを受け取らず、容赦なく踏みにじった。それが5年後になって、彼女の真心を気にかけるようになるとは、一体どういうことなのだろう?

この日、林薫織は忙しい一日を終え、会社を出て病院に行こうと決めたが、会社の玄関を出たところで、同僚に意図的に肩をぶつけられた。「薫織、見て!イケメンよ!」

「帽子とキャップとマスクで顔を隠しているのに、どうしてイケメンだと分かるの?」別の同僚が反論し、鼻で笑った。「何様のつもり?自分が芸能人だとでも思ってるの?」

「あれはクールに決めてるのよ、分かる?この私の目は確かなの。私の経験から言って、絶対イケメンよ、間違いないわ!」

二人がああだこうだと言い合っていたが、林薫織は一言も耳に入れていなかった。その人が顔を完全に隠していても、林薫織は一目見ただけで彼だと分かった。

藤原輝矢がなぜここにいるの?

林薫織の最初の反応は驚きだったが、次に条件反射的に逃げ出したいと思った。前回の出会いは決して楽しいものではなく、今の彼女は彼に素直に向き合うことができなかった。

幸いにも今は会社の通常の退社時間で、会社の出入り口には多くの従業員がいた。彼女はゆっくりと身を翻し、彼に背を向け、近くのバス停に向かって歩き始めた。彼に見つからないことを願いながら。

しかし願いとは裏腹に、彼女が数歩も歩かないうちに、背後から藤原輝矢の声が聞こえた。「林薫織!」

藤原輝矢の声を聞いた瞬間、林薫織はもう何も考えられず、道端に向かって走り出した。しかし、結局彼女は藤原輝矢の足の速さには敵わず、数歩で追いつかれてしまった。

手首を掴まれた瞬間、林薫織はどこからか力が湧いてきて振り払おうとしたが、次の瞬間には男の大きな手にしっかりと捕まえられてしまった。林薫織は抵抗したが、今回は藤原輝矢は隙を見せなかった。

「離して!」

「離さない!」