林薫織は目を伏せて二人の握り合った手を見つめ、思わず力を入れて藤原輝矢の手から自分の手を引き抜こうとした。「あれはただの民間伝説よ、本当のことじゃないわ」
藤原輝矢は突然指に力を込め、彼女の手をしっかりと掴み、輝く瞳で彼女を見つめた。「でも僕は信じたいんだ」
「藤原輝矢、実は…」
林薫織が何か言おうとした時、声は通行人の驚きの声に遮られた。「見て、あそこの川面に何かあるよ!」
言葉が口元まで出かかっていたが、林薫織はこのタイミングで決別の言葉を言うのを忍びなかった。別れるのであれば、お互いに最も美しい思い出を残したいと思った。
「薫織、さっき何を言おうとしたの?」
「いいえ、何でもないわ」林薫織は淡く微笑み、遠くの川面に浮かぶ小さな明かりを指さして尋ねた。「あれは花灯籠?」
「うん」藤原輝矢はうなずいた。「今日はここの一年に一度の花灯籠祭りなんだ。今はまだ始まったばかりで、これからもっと増えるよ」
確かに藤原輝矢の言った通り、先ほど橋の上から見えた小さな光は前奏に過ぎなかった。ナイトカラーが濃くなるにつれ、川面の花灯籠はだんだんと増えていった。ちょうど今夜の天気も良く、晴れ渡った空に満月が高く掛かり、銀色の月光が静かな川面に降り注ぎ、川面の小さな光をより一層明るく輝かせていた。
「私たちも一つ流してみない?」林薫織が答える前に、男性は彼女の手を取って川辺へと歩き始めた。
古い町に入った時は人があまり多くなかったが、川辺に着くと、意外にも多くのカップルや友人グループがいた。みな花灯籠を見に来たのだろう。
藤原輝矢は川辺の店から花灯籠を一つ買い、林薫織の前に差し出した。「ほら、君の花灯籠だよ」
花灯籠は蓮の花の形をしており、白色で、中央にろうそくがあり、絹の布の紐が一本付いていた。林薫織は藤原輝矢から花灯籠を受け取り、その絹の紐に視線を落として尋ねた。「これは何?」
「願い事を書くためのものだよ。花灯籠を売っていたおじさんが言うには、ここの川の神様はとても霊験あらたかなんだって」