体が冷たい海水に落ち込み、林薫織の意識は暗闇へと落ちていった。混沌の中で、彼女は二つの見知らぬ声を聞いたような気がした。男性と女性の声のようで、二人は何かを争っているようだったが、彼女にはよく理解できなかった。
「人を救えって言ったのに、あなたときたら、人をモルモット扱いしたわね!」女性が義憤に駆られて言った。
「君が人を救えと言ったから、彼女を救ったじゃないか?」男性はとても無実そうだった。
「そうね、確かに命は救ったわ。でも暇なの?どうして余計なことをして、人の顔にまでメスを入れたの!」
「彼女の右頬に醜い傷があるのを見たんだ。せっかく命を救ったんだから、最後までやり遂げようと思って、その傷跡も取り除いてあげたんだよ。」
「本当にそう思ってたの?いいわ、仮にあなたの善意だとしても、人の顔を丸ごと取り替えるなんてことするはずないでしょ?ねえ?」
「あの...」男性は一瞬言葉に詰まり、もごもごと「あのね、夕奈、知ってるだろ、僕はこういう趣味があって、人の顔を見ると手が痒くなって、自分の手とメスを抑えられなくなるんだ。それに、彼女に与えたこの顔は僕が厳選したものだよ。ほら、見てよ、羨ましくなるほど美しいだろ?」
「ふん!そんなこと言わないで!」夕奈と呼ばれた女性は鼻で笑った。「何の理由もなく人の顔を取り替えておいて、今度はそんな無責任なことを言うなんて。彼女が目を覚まして、自分の顔が変わっているのを見たら、あなたの命を取りに来るわよ。どうするつもり?」
「えっと...これは...夕奈、助けてくれよ!」
「私があなたを助ける?どうやって?あなたが作った問題よ、私には手伝えないわ。」
「でも君は彼女の命の恩人だろう?君が私のために少し良い言葉をかけてくれれば、きっと効果があるはずだ。」
「命の恩人?」夕奈は男性を一瞥した。「この命の恩人は、あなたのために頼む顔なんてないわ。」
「じゃあ彼女が目覚めないことを祈るしかないな。」
「あなた、良心ないの?」
「彼女はもう半年以上昏睡状態だ。目覚めないのも不思議じゃないだろう?」
「あなた、最近彼女に目覚める兆候があって、もうすぐ目を覚ますって言ったじゃない?」
「僕...そんなこと言ったっけ?」
「ふん...私がいない間に彼女を殺そうとしてるんじゃないでしょうね?」