松本一郎の言葉がまだ終わらないうちに、小島夕奈は彼の耳を強く引っ張り、問いただした。「松本一郎、正直に言いなさい。彼女の記憶喪失はあなたが罪から逃れるために故意にやったことなの?」
松本一郎は自分の耳がこの女山賊に引きちぎられそうになり、委屈そうに言った。「おいおい、そんな大それた能力は持ってませんよ。顔の入れ替えなら私にとって技術的に難しくないですが、頭の中身については、少しも触れる勇気はありません。間違えれば命に関わりますからね!」
小島夕奈はそれを聞いて、もっともだと思い、彼を放した。そして小さな声で呟いた。「じゃあ、私たちはどうすればいいの?ずっと彼女を地下室に隠しておくわけにもいかないし。それに、社長はめったに帰ってこないとはいえ、家の中にこんな大きな生きた人間を隠しておけば、いずれバレるわよ」
当初、小島夕奈は海辺で遊んでいた時、偶然にも息も絶え絶えの林薫織を救い、同情心から彼女を別荘の地下室に隠し、老夫人の専属医師を呼んで治療させたのだった。
松本一郎という人物は口は悪いし、行動も軽率だが、医術は確かに優れていた。そうでなければ、社長に雇われてここで老夫人の世話をすることもなかっただろう。
老夫人の体調がずっと良くなかったため、時々発作を起こすことがあり、別荘の医療設備はかなり充実していた。中小規模の病院に匹敵するほどで、これが林薫織を救うための必要条件を提供した。そうでなければ、彼女はとっくに命を落としていただろう。
小島夕奈は林薫織がベッドで2、3日横になれば目を覚まし、社長が戻ってくる前に彼女を送り出せると思っていた。しかし、自分が大きな問題を抱え込むことになるとは思いもよらず、いくら待っても林薫織は目覚めなかった。
普通の人なら、このような状況に遭遇したら、おそらくとっくに林薫織のことを放っておいただろう。しかし小島夕奈は口は悪くても心は優しく、見捨てる勇気がなかった。
彼女はこうして先延ばしにし続け、あっという間に半年以上が音もなく過ぎ去った。今、林薫織はようやく目覚めたが、記憶を失っていた。これをどうすればいいのだろうか?
「じゃあ、彼女を送り出せばいいじゃないか!」松本一郎は肩をすくめた。
「簡単に言うわね。彼女は何も覚えていないのよ。どこに送ればいいの?」