泉改後: 第533章 窒息

「どうして止まったの?」氷川泉が尋ねた。

「前の方は、自分で拭いてください?」

「今は怪我人だから、手に力を入れられないんだ。諺にもあるだろう、人を助けるなら最後まで、人を送るなら西まで、途中で投げ出すわけにはいかないだろう?」男は顔を横に向け、高橋詩織の顔に不自然な赤みがあるのを見て、急に近づいて一言一言はっきりと尋ねた。「もしかして恥ずかしいのか?」

「恥ずかしい?ふふふ……どこの目で私が恥ずかしがっているのを見たの?」高橋詩織は数回笑い、負けじと言った。「前を拭くなら拭くわ、大したことないわ」

高橋詩織が男の前に立ち、氷川泉と間近に向き合った時、彼女はようやく後になって気づいた。自分は氷川泉の挑発に乗せられたのだと。

しかし、今さらそれに気づいても遅すぎた。彼女は意を決して手を伸ばし、男の胸の肌を力強く拭いた。

高橋詩織は認めざるを得なかった。氷川泉というやつの体つきはかなり良いものだった。彼女は自分に言い聞かせた。自分は氷川泉の体を拭いているのではなく、完璧な彫像を鑑賞しているのだと。しかも入場料も払わなくていい。これほど良いことはないではないか?

そう考えると、高橋詩織の心はいくらか落ち着いた。彼女は男の胸の肌を力強く拭き、十分な力を込めて、まるで本当に彫像を磨いているかのようだった。

氷川泉は胸の肌がわずかに痛むのを感じ、思わず目を伏せて目の前の女性を見た。彼女は集中して拭いており、非常に没頭していた。

彼は苦笑して、ついに口を開いた。「実は、そんなに力を入れなくてもいいんだよ」

高橋詩織がしばらく反応しないのを見て、あまりにも集中しすぎて自分の言葉を聞いていないようだったので、男は仕方なく頭を振り、思わず手を伸ばして高橋詩織の手をしっかりと握った。

手が大きな掌にしっかりと包まれ、高橋詩織はすぐに我に返った。彼女は困惑した目で顔を上げ、不意に笑いに満ちた瞳と目が合った。

「もう少し力を入れたら、私の胸の皮が擦り切れてしまうところだったよ」

それを聞いて、高橋詩織の目に一瞬の恥ずかしさが走り、無意識に手を引こうとしたが、氷川泉は彼女の手をしっかりと握っていて、どうしても抜けなかった。

男の手のひらの温もりが高橋詩織の手の甲を通してじわじわと広がり、高橋詩織の錯覚かもしれないが、胸の辺りまで熱くなっているように感じた。