「どうして止まったの?」氷川泉が尋ねた。
「前の方は、自分で拭いてください?」
「今は怪我人だから、手に力を入れられないんだ。諺にもあるだろう、人を助けるなら最後まで、人を送るなら西まで、途中で投げ出すわけにはいかないだろう?」男は顔を横に向け、高橋詩織の顔に不自然な赤みがあるのを見て、急に近づいて一言一言はっきりと尋ねた。「もしかして恥ずかしいのか?」
「恥ずかしい?ふふふ……どこの目で私が恥ずかしがっているのを見たの?」高橋詩織は数回笑い、負けじと言った。「前を拭くなら拭くわ、大したことないわ」
高橋詩織が男の前に立ち、氷川泉と間近に向き合った時、彼女はようやく後になって気づいた。自分は氷川泉の挑発に乗せられたのだと。
しかし、今さらそれに気づいても遅すぎた。彼女は意を決して手を伸ばし、男の胸の肌を力強く拭いた。