第548章 恋愛アピールして早死にするのが怖くないの?

食事を終えると、高橋詩織の気分はようやく少し良くなった。中村旭も気遣いがあり、午後に会議があるにもかかわらず、高橋詩織をマンションの入り口まで送ってくれた。

高橋詩織が車から降りようとしたとき、中村旭はためらいながらも口を開いた。「氷川財団とレーマンの案件だけど、僕が担当を代わろうか?やっぱり君と氷川泉は……」

「必要ないわ」高橋詩織は彼の言葉を遮った。「公私はきちんと分けられるわ。この案件は最初から私が担当しているんだから、最後まで責任を持つわ」

「本当に大丈夫?」

高橋詩織は突然軽く笑った。「何が心配なの?確かに氷川泉に少しばかり気持ちがあったし、彼に弄ばれたことで気分は良くないけど、だからって天を仰いで地を叩いて、ずっと落ち込んだりはしないわ。だから安心して、問題ないから」

中村旭はじっと彼女を数秒見つめ、高橋詩織の顔に異変がないのを確認すると、うなずいた。「わかった。じゃあこの案件は君に任せるよ」

中村旭に手を振って別れた後、高橋詩織はマンションに入っていった。ただ、振り返った瞬間、彼女の顔から笑顔が消えていた。実際、豪華な食事の後で気分は確かに少し良くなったものの、心の奥底では何かに引っかかっているような感覚があり、全身がすっきりしなかった。

これが自尊心のせいなのか、それとも……

高橋詩織は激しく頭を振り、考えるのをやめようと努力した。氷川泉が最初に彼女に近づいたのは、単に彼女を元妻と勘違いしていただけだ。今や誤解は解けて、すべては元の状態に戻ったのだ。

彼女、高橋詩織はれっきとしたレーマンのCEOなのだ。他人に猿扱いされても、その相手に未練を持つほど低レベルではない。もしこの件にこだわり続けるなら、それこそ自分を貶めることになる。

心の整理をしたつもりでも、高橋詩織の心の暗雲は依然として存在していた。さらに不愉快なことに、エレベーターの前で彼女が最も会いたくない人物と遭遇してしまった。

藤原輝矢のこちらの部屋は、以前はずっと空いていたはずなのに、最近は頻繁に彼と鉢合わせるようになった。

高橋詩織はもともと藤原輝矢が気に入らなかったが、今日は気分も優れず、彼を見るとさらに憂鬱になった。エレベーターのドアが開いた瞬間、高橋詩織は先にエレベーターに乗り込んだ。まるでそうすれば、この憎たらしい男を千里の彼方に隔離できるかのように。