第570章 迷夢

房原城治は唇の端をわずかに動かし、軽く咳払いをしてから、落ち着いた声で言った。「わかった。」

松本一郎は林薫織の点滴を準備すると、気を利かせて退室した。客室を出る前に小島夕奈に目配せするのも忘れなかった。

小島夕奈は合図を受け取り、彼の後に続いて部屋を出た。

客室を出ると、小島夕奈は松本一郎が既に階段口まで歩いているのを見て、追いかけた。

「なぜ私を呼び出したの?」

「あなたはあそこで電灯の邪魔をしたいの?」

「でも……でも高橋詩織は……」高橋詩織の本当の身分を知っていても、小島夕奈はまだ彼女の本名で呼ぶことに慣れていなかった。

「大社長がいれば何も問題ないよ。それに、彼らはあなたがそこにいると邪魔だと思っているかもしれない。あなたがいなくなることを望んでいるんじゃないかな」松本一郎は彼女に向かって狡猾に目配せした。「大社長は高橋詩織にかなり心を痛めているようだ。襄王が夢を見て神女が招くように、大社長に美女の心を勝ち取るチャンスを与えるべきだと思わない?」