林薫織はゆっくりと顔を上げた。目に映ったのは温和で端正な顔だった。男性は優しい笑顔を浮かべ、声はいつものように温かかった。
「薫織、大丈夫?」
彼女は大丈夫だろうか?
「いいえ、私は大丈夫じゃない。ひどい状態よ!」林薫織は首を振った。
「大丈夫だよ、人生は思い通りにならないことばかりさ」
突然、男性の端正な顔が波の音の中で別の顔に変わった。
「この木頭、なぜ不機嫌なんだ?もしかして俺様に会えなくて寂しかったのか?」
藤原輝矢?
林薫織の心臓が激しく震えた。彼女は手を伸ばして男性のツンデレな顔に触れようとしたが、触れる寸前にすべてが粉々に砕け散った。
彼女の手は宙に固まったまま、魂が抜けたように先ほどの顔があった場所を見つめていた。喉の奥が苦く感じる中、突然太ももに何かがきつく抱きついた感覚があった。