このような状況は、以前には一度もなかった。何年もの間、林薫織の両親を訪れるのは彼一人だけだった。今回、彼以外に誰がいるというのだろうか?
もしかして氷川泉だろうか?
いや、彼ではないはずだ。彼と林薫織の父親との恩讐は、4年前に彼が調査して明らかにしたものだ。
林薫織のために、氷川泉は林薫織の父親への恨みを手放したように見えるが、自分の敵の墓前に参りに来るとは考えにくい。
氷川泉以外に、誰がいるのだろうか?
藤原輝矢は周囲を見回し、墓石の周りを探したが、一列また一列と並ぶ墓石以外に誰もいないことに気づいた。
彼はゆっくりと視線を戻し、瞳の奥に暗い影を宿した。自嘲気味に笑いながら、彼は何を期待しているのだろう。まさか、その人が自分が心から思い続けている人であることを望んでいるのだろうか?
そんなはずがない。
彼女はもういない。彼はなぜ自分を欺き続けるのか。
実は、彼がもう数歩前に進んでいれば、墓石の横にあるバラの茂みの後ろに一人の人影があることに気づいただろう。彼がずっと思い続けていたその人が。
しかし、彼はついにそうしなかった。ちょうどその時、幼なじみから電話がかかってきたからだ。藤原輝矢は電話に出ながら、階段を下り、墓地の外へと歩いていった。
バラの茂みを通して、林薫織は藤原輝矢の遠ざかる背中を見つめ、自分がどんな気持ちなのか言い表せなかった。ただ、時が経ち状況が変わり、彼女と藤原輝矢の間にはもう可能性がない。可能性がないのなら、高橋詩織が林薫織であることを彼に知らせる必要もないだろう。
林薫織はゆっくりと手を上げ、自分の顔に軽く触れた。藤原輝矢には自分が死んだと思わせておくのがいいだろう。
ある人々、ある出来事は、再会するより思い出の中にある方がいい。
林薫織はゆっくりと林の母と林の父の墓石の前に歩み寄り、しゃがんでティッシュで墓石の写真を拭いた。
4年の時を経て、墓石の写真はやや黄ばんでいたが、写真の中の二人の顔には彼女になじみのある笑顔が浮かんでいた。
林薫織はその黄ばんだ写真をじっと見つめ、唇の端に淡い笑みを浮かべた。「お父さん、お母さん、帰ってきたよ。」
「不孝な娘で、こんなに長い間会いに来なくて。でも、娘にはやむを得ない事情があったの。怒ってないよね?」