第560章 愛は必ずしも所有を意味しない

その後の数日間、高橋詩織は終わりのない悪夢に陥り始めた。目を閉じると、あの夜車の中での出来事を夢に見るようになった。彼女の生活は混乱し、仕事の方も急速に悪化していった。

アメリカでは、彼女の職を解任すべきだと主張する人々が増え続け、このまま続けば、中村旭が言ったように、彼女はいずれIT業界で生きていけなくなるだろう。

以前なら、高橋詩織はまだ努力して自分の冤罪を晴らす方法を考えただろう。しかし今回、彼女はかつてないほどの疲労を感じ、極めて意気地のない考えが浮かんだ。流れに身を任せ、事態の成り行きに任せてしまおうと。

高橋詩織がこの状況に消極的に対処するのを見て、中村旭はやや焦りを感じていた。苦難を共にしてこそ真の友情が見えるというが、高橋詩織が何の行動も起こさない一方で、中村旭は彼女のために東奔西走し、事件の全容を懸命に調査していた。

しかし、悲しいことに、半月が経っても事態は何も進展しなかった。

高橋詩織は中村旭が自分のために奔走する姿を見て、自分の仕事よりも熱心に取り組む彼に心を動かされ、この日彼を呼び出して、簡単な食事でもてなすことにした。

「もういいんじゃないかな、中村旭。この件は明らかに誰かが裏で操作していて、しかもその人物の力は侮れないものだ。調査しても、すぐには真相は分からないだろう」

「でも、アメリカのあの老いぼれたちが...」

「彼らはただ私をあの地位から引きずり下ろしたいだけよ。彼らがそこまで苦心しているなら、望み通りにさせてあげればいいわ。どうせこの数年、私も疲れていたし」

「本当に諦めるの?」

「諦めたところでどうなる?諦めなくてもどうなる?」

高橋詩織は微笑んだ。この数年間、表面上は華やかな生活を送っていたが、心は決して本当に幸せではなかった。過去数年間、彼女はまるで機械のように、休むことなく回り続け、自分が生きる意味について考えたことはなかった。

実際、あの地位は彼女がずっと好きではなかった。彼女は一人の女性、ごく普通の女性であり、女戦士のような生き方をしたいとは思っていなかった。

彼女は思った。今回こそ、立ち止まって考える機会かもしれない。これからの人生をどう歩むべきか。

中村旭が眉をひそめて自分を見つめているのを見て、高橋詩織は自嘲気味に笑った。「私がやる気がないように見える?」