一瞬の間、個室には房原城治と林薫織の二人だけが残された。房原城治は相変わらず平然とした表情を浮かべていたが、林薫織は心中焦りに満ちていた。
長い沈黙の後、彼女は小さな声で繰り返した。「私に何をしてほしいの?」
その言葉が落ちるや否や、彼女の手首が突然強く掴まれた。
彼女の下には柔らかな本革のソファ、目の前には侵略的な雰囲気を漂わせる男の整った顔があった。
男の温かい吐息が彼女の顔にかかり、アルコールと葉巻の香りが混じっていた。なぜか、林薫織はその息が焼けるような熱さを帯びているように感じた。もう少し近づけば、彼女の顔を焼いてしまうかのようだった。
男の長く整った指が、彼女の顎を軽く掴んだ。深みのある冷たい声が頭上から聞こえてきた。
「林薫織、俺がお前を好きだということを知っているだろう」
林薫織はバカではない。当然、房原城治の言葉の意味を理解していた。
彼女の唇が震えた。ここに来る前に最悪の事態を覚悟していたはずなのに、いざという時になると、やはり平静ではいられなかった。
彼女は抵抗せず、房原城治を押しのけることもせず、ただ深く息を吸い込んだ。「あなたが望むものなら何でも差し上げます。ただ、私を助けてくれるなら」
「ふふ……林薫織、俺が本当にお前の求めるものを見つけられるかどうかも分からないのに、そんなに簡単に俺の要求を受け入れるのか。結局何も得られなかったらどうする?」
「怖いです。でも、薫理を救うチャンスを逃すことの方がもっと怖いんです。たとえあなたが骨髄の適合者を見つけられる確率が1パーセントだけだとしても、私はあなたにお願いします。だって彼女を失うわけにはいかないんです。彼女は私の全て、この世界で唯一の肉親なんです」
「本当に偉大だな」男の整った顔が突然近づいてきた。
「私はただの普通の母親です」
「いいだろう、普通の母親よ。さあ、お前の誠意を見せてもらおうか」
彼女は寒さからなのか、恐怖からなのか分からなかった。
林薫織は外出する時、デニムのワンピースを着ていた。
しかし、今夜は逃れられないと思った瞬間、体の上の重みが突然消えた。
頭上から男の冷たい声が聞こえてきた。「林薫織、お前の心の中で、俺はそんな男なのか?」