「彼はさっき私を訪ねてきたけど、もう帰ったわ。何かあったの?」林薫織は小島風真の声のトーンがおかしいのを聞いて、思わず尋ねた。
「彼が出て行ってどれくらい経つ?何か言っていなかった?」
「たぶん2時間くらい前かな。メキシコに行くって言ってたわ」
「メキシコ?彼は本当にメキシコに行くと言ったのか?」
「何かあったの?彼がメキシコに行くことに何か問題でもあるの?」
「問題というわけではないが...まあいい、すべては運命次第だ。城治は一生賢かったのに、どうして急に愚かな行動をとるんだ?」
小島風真は意味不明なことを言い、林薫織は混乱して聞いていた。何が起きているのか詳しく尋ねようとした時、小島風真は電話を切ってしまった。
林薫織は困惑して携帯の画面を見つめ、房原城治がメキシコに行くという件はそう単純なことではないと薄々感じていた。
彼女はじっくり考えれば考えるほど、違和感を覚えた。房原城治はその骨髄が薫理と適合するかどうか確信が持てないなら、信頼できる人を派遣すれば良いはずだ。なぜ自分で行く必要があるのだろう?
林薫織は考えれば考えるほど不安になり、携帯を取り出して房原城治の番号に電話をかけ、事情を確かめようとした。
「申し訳ありませんが、お掛けになった電話の電源は入っておりません。後ほどおかけ直しください。申し訳ありませんが、お掛けになった電話の電源は入っておりません。後ほどおかけ直しください...」
林薫織は、房原城治がおそらく飛行機に乗ったから電話が通じないのだろうと思い、ひとまであきらめた。明日また電話してみるしかないようだ。しかし、林薫織が翌日彼に電話をかけても、やはり応答はなかった。
これまでこのようなことは一度もなかった。林薫織は房原城治が自分に恨みを持っていることを知っていたが、自分を嫌っているからといって、ずっと携帯の電源を切っているとは考えられなかった。
不吉な予感が林薫織の心に湧き上がり、その予感は5日後に的中した。
その日、小島夕奈が突然彼女を訪ね、泣きながら彼女を病室の外へ引っ張っていった。
「高橋詩織、私と来て、早く来て!」
林薫織は困惑して尋ねた。「夕奈、何があったの?」
「今は何があったか聞かないで、とにかく私についてきて!」