第84章 すべてがまだ間に合うことに感謝

大江瑞穂は黙り込んだ。

そう言われると、やはり彼女は人を見誤ったのだろうか?

しかし、彼女は自分の感覚が間違っているとは思えなかった。いわゆる工藤希耀が夏目初美を騙したという件については、遠山陽介もすでに説明していたし、すべて筋が通っていた。

それは意図的な欺きとは言えず、単なる誤解だったのだ。

結局、工藤希耀が言っていた「工藤夫人」も「幼なじみ」も、実は夏目初美のことではなかったの?

彼は一体何が目的なのだろう?

彼は本当にひどすぎる!

夏目初美は大江瑞穂がショックを受けているのを見て、逆に彼女を慰め始めた。「瑞穂、大丈夫よ。今わかったのは、私たちが想像していたほど良い状況ではなかったってことだけ。私たちが知らないことはまだたくさんあるわ、それでいいの。実際に騙されて、後で気づいて後悔するよりはましでしょう?」

「とにかく私は感謝してる。まだ深みにはまっていなかったこと、まだ間に合うことに。さあ、寝ましょう。明日帰ったら引っ越しを手伝ってもらわないといけないし、私一人じゃ無理だから。」

「引っ越しが終わったら、離婚申請も出さないといけないわ。残念ながら正式な離婚証明書は1ヶ月後になるから、どうしても来年までずれ込むわね。今年中に終わらせられないなんて。前からもっと早く決断すればよかったわ。でも旧正月までには間に合うから、古いものを捨てて新しいものを迎える、という意味では完璧ね。」

大江瑞穂は夏目初美の言葉に泣きそうになった。「初美、ごめんなさい。あんなこと言わなければよかった。本当に私はただあなたに幸せになってほしかっただけなの。この頃、あなたの笑顔が増えて、生き生きとしてきたように見えたから。」

「彼があなたを幸せにできるなら、原則的な問題でない限り気にしなくていいと思ったの。なんで私はこんなにおしゃべりなんだろう、この口が止まらないんだから。」

夏目初美は笑った。「私は泣いてないのに、あなたがなぜ泣きそうなの?私は本当に大丈夫よ...まあ、悲しみや怒りはもちろんあるけど。」

「でも今はまだ始まったばかりで、身を引くのにまだ間に合うと思うと、むしろ安心するわ。前回のように骨身にこたえるようなことになったら、泣き場所もなくなるところだったわ。さあ、早く顔を洗って、私はもう寝たいの。」

大江瑞穂もそうだと思った。