第87章 離婚申請

工藤希耀がどうして夏目初美が引っ越したことを知らないわけがあるだろうか?

彼は車の中に座って、ずっと自分の目で見ていたのだ。

見れば見るほど胸が苦しくなり、表情もどんどん険しくなっていった。何度も夏目初美に真実を打ち明ける機会があったのに、結局は自分の判断を過信して告白しなかった自分を殴りつけたい気分だった。

あの時、陽介が忠告してくれたのに……

思わず苦笑してしまう。

以前、夏目初美が引っ越すと言えば引っ越し、クズ男とはきっぱり縁を切ると言えば縁を切り、少しの未練も見せなかった。

彼はその決断力と彼女の特別さを称賛し、幸運だと思っていた。

今、自分がその立場になって初めて、あの感覚がどれほど辛いものか、彼女がもう少し優柔不断であればいいのにと思うようになった。

でも大丈夫、彼は誠意を持って初美の許しを得て、もう一度チャンスをもらい、そして彼女をすぐに戻ってこさせるつもりだ!

その夜、夏目初美は鍋をあまり食べなかったが、お酒はかなり飲んだ。

大江瑞穂はカクテルのアルコール度数が低いことを知っていたので、特に止めなかった。どうせ家の中だし、自分が彼女の面倒を見ることができるから。

しかし夏目初美は彼女の想像以上に理性的で、半分酔っ払った後は飲むのをやめ、自分でゲストルームに戻って寝た。

そして、とても静かに眠っていた。

大江瑞穂はしばらく様子を見て、彼女が本当に眠っていることを確認した。昨夜はほとんど眠れなかったのだから、今はアルコールの助けを借りて、よく眠れるのはいいことだと思った。

そこで彼女の布団をかけ直し、そっと電気を消して、自分も部屋に戻って眠りについた。

夏目初美はそれから目を開けた。

彼女は眠りたくないわけではなく、単に眠れなかったのだ。

どうやら、やっと少し良くなってきた不眠症が、また悪化してしまうようだ。

明日、あの植物たちを持ってこようかな……いや、天海湾には二度と足を踏み入れないつもりだ。新しいものを買い直そう!

翌朝、大江瑞穂は夏目初美の目の下のクマを見て、昨夜もよく眠れなかったことを悟った。

心配になった。彼女が大泣きするか、大声で怒鳴るかして、心の中の怒りや苦しみを発散できれば、まだましかもしれない。

今のように全部心の中に押し込めていたら、長い間には体に問題が出てくるのは当然だ!