橋本燃は販売部に来て、遠くから人々が集まって何かを熱心に話しているのを見た。
「お嬢様、これからは私たちと一緒に働くのですか?」
「毎日こんな美人を見られるなんて、私たちは本当に幸せです。」
「お嬢様は温井社長のものだから、余計な考えは持たないでください。」
「とんでもない、私たちがそんな考えを持つわけがありません。目の保養になるだけで十分幸せです。」
「……」
周囲の熱心な賛辞に、松本晴子の心の虚栄心は大いに満たされた。
「皆さんの温かい歓迎をありがとうございます。これからは共に戦う同僚です。ここでは私はいわゆるお嬢様でもなく、温井時雄の婚約者でもありません。どうぞ皆さん、晴子と呼んでください。」松本晴子は柔らかい声で、落ち着いた態度で言った。
松本晴子が安城一の名家の婚約者がいるにもかかわらず、そんなに優しく控えめで、謙虚で礼儀正しいのを見て、周りの人々は彼女に対する好感をさらに強めた。
「晴子さん、あなたが三年間昏睡状態だったことは私たちも知っています。世界から三年間離れていたのだから、何かわからないことがあれば、遠慮なく私に聞いてください。私が知っていることなら、必ず惜しみなく助けますよ。」同僚の熊田勇二は真摯な表情で言った。
「私もです。何か問題があれば、いつでも私に聞いてください。」田中飛も同調した。
「ありがとう、何かあれば遠慮なく頼らせてもらうわ。」松本晴子は目の端で、遠くから歩いてくる、白い装いで雪の精霊のように純粋な橋本燃を見て、目に驚きの色が浮かんだ。
橋本燃が着ているその服は、彼女が病院で療養していた時に雑誌で見たもので、HOTブランドの冬物の最新作だった。
この「初雪再生」というコンセプトの服は12月中旬に発売され、一式で900万円の価値があった。
数千億円や数億円のドレスに比べれば、この服はそれほど高価ではないが、この服は純粋に良い素材と良いデザインだけで、他の寶石などは付いていない。
900万円は、すでにかなり高額な価格だ。
橋本燃はお金があって買えるとしても、この服はまだ発売されておらず、お金があるだけでは手に入らないものだった。
今日彼女がそれを身につけているのは、どうやってこの一式の服を手に入れたのだろう?