キスよりもっと親密なことをしたことがあるのに、橋本燃の心臓はまだ抑えきれないほど速く鼓動していた。まるで喉から飛び出しそうなほどだった。
同時に、彼女は理解した。何度「もう温井時雄を愛さない」と言っても。
温井時雄に少しでも近づくと、彼女がこれまでしてきた千回、万回の努力が、その少しの接近によって水の泡になってしまうのだ。
橋本燃、きっぱり諦める勇気はどこへ行ったの?
彼は今や松本晴子の男なのに、あなたはまだ他人の男に未練を持っている。どんな女なの?
先に我に返った橋本燃は、温井時雄がまだ衝撃から立ち直れないうちに、手足を使って温井時雄の体を殴り始めた。
無防備だった温井時雄は、顔にしっかりと平手打ちを食らい、首に強く蹴りを入れられ、体はボールのように壁際まで転がった。
最後に彼は電光石火の速さで起き上がり、壁に背中をつけて座った。
内臓がねじれて引き裂かれるような痛みがあったにもかかわらず、温井時雄は男としての威厳を保ち、橋本燃の前で少しも苦しい表情を見せなかった。
彼は女性の前で惨めな姿を見せることを許さなかった。
特にその女性が、彼が三年間無視してきた元妻であればなおさらだ。
「温井さん、胃の痙攣はいかがですか?」橋本燃は軽やかな笑みを浮かべながら温井時雄を見た。
普通の人なら、彼女のあの一蹴りの力で、今頃は痛みで気絶しているはずだった。
「何が胃の痙攣だ、お前の蹴りなど鶏が引っ掻くようなもので、取るに足らない」温井時雄は冷静さを装い、さりげなく答えた。
あの端正な顔には明らかに赤く腫れた五本の指の跡があるのに、まだ口では鶏が引っ掻くようなものだと強がっている。
さすが男、本当に強情だ。
「今の平手打ちと蹴りは、夫婦の仲だった情けで、三十六計の中の美人計を忘れないようにという警告よ。いつか女に殺されても、どうやって死んだか分からないなんてことにならないようにね!」橋本燃はわざとそう説明した。
彼に先ほどの偶然のキスについて他の推測をさせないためだ。
つまり先ほど彼女が彼にキスしたのは、美人計で彼を惑わすためだったというのか?
殴られて痛くて恥ずかしかったが、なぜか気分は悪くなかった。