一食の食事で、温井時雄は味わうことなく食べ、心は乱れていた。
あの女性は二階に上がってから部屋から出ておらず、彼女の背中の怪我が重いのかどうか、処置したのかどうかもわからなかった。
「雪満、書斎に私が大切にしている傷薬があるから、後で燃に薬を塗ってあげなさい。彼女は女の子なのだから、背中に傷跡が残るのは良くないよ」松本志遠は慈愛に満ちた声で言った。
橋本燃の体に傷跡が残るかどうか、松本志遠は少しも気にしていなかった。
ブライアンがHOTのプロジェクトを橋本燃に任せたのだから、橋本燃が重傷を負ってプロジェクトの進行に影響が出たら困るのだ。
「さっき見に行ったとき、彼女は薬を塗ったから寝ると言っていたので、食事の後にまた様子を見に行こうと思っていたの。あなたのところにもっと良い薬があるなら、今すぐ彼女に塗りに行くわ」
実際、田中雪満は形だけ二階に行って数回呼びかけただけで、橋本燃は全く応答しなかった。
「お母さん、私も一緒に見に行くわ!」
「彼女はあなたに対して偏見を持っているから、安全のために、あなたは彼女に会わない方がいいでしょう」温井時雄は冷たい声で言った。
温井時雄が橋本燃に対して冷淡な態度を取るのを聞いて、松本晴子は心の中で喜んだが、それでも感動的な姉妹愛を示した。
「同じように一晩帰らなかったのに、おばあちゃんは私を罰せず彼女だけを罰した。私だったら、私も不満に思うわ。彼女の気持ちはわかるの。だからこそ、もっと彼女を気遣って、何があっても私たちは家族だということを知ってもらいたいの」
「どうしても行きたいなら、あなたの安全のために、私が側にいるよ」
温井時雄が自分をこんなに気にかけてくれるのを見て、松本晴子は恥じらいの表情を浮かべた。
「それじゃあ、お願い」
松本晴子は温井時雄の手を引いて橋本燃の部屋のドアの前に立ち、数回ノックして優しい声で言った。「燃、今どう?お父さんが特別な傷薬を持っていることを思い出したの。入って薬を塗らせてくれない?」
松本晴子は何度かノックしたが、中からの返事はなかった。
「燃、ひょっとして怪我がひどくて気を失っているんじゃない?」松本晴子は緊張した様子で田中雪満を見た。
「鍵を取ってきて開けてみるわ」
田中雪満はすぐに鍵を持ってきたが、ドアは内側から鍵がかけられていて、全く開かなかった。