第58章 温井時雄と橋本燃の初対面

橋本燃は手で推拿マッサージ用の薬酒を塗りながら、無関心そうに言った。「あなたの信頼なんて必要ないし、今後は私に親切なことをしないでください。私が道端で死んでいても、見向きもしないでください。私のことは、あなたとは——無関係なんですから!」

「うっ……」

最後の二文字を言うとき、橋本燃は声に力を込めると同時に、手の推拿の力も強めた。痛みに温井時雄は思わず苦痛の呻き声を漏らした。

激しい痛みに温井時雄は本能的に怒鳴った。「橋本燃、お前は親を殺そうとして……」

後の言葉は、彼が橋本燃と既に離婚していることに気づいた瞬間、喉に詰まった。

彼は無意識のうちに彼女が——夫を殺そうとしていると思ったのだ。

「手を離してくれ。親切に治療してくれたんだから、私はある人のように恩を仇で返して人の傷口に塩を塗るようなことはしない」温井時雄は冷静を装って話題を変えた。

橋本燃は温井時雄が「傷口に塩を塗る」と言ったのは、彼女が彼のお腹をマッサージして血を吐かせたことを指していると知っていた。

実際それは彼女の治療法の一つで、肺に溜まった液体を吐き出させることで、喉に異物が詰まったような痒みを感じなくなり、胃酸の逆流も軽減されるのだ。

しかし彼女は説明せず、彼の先ほどの言葉に心臓がドキドキと鹿のように跳ねた。

後の言葉は温井時雄がすぐに止めたが、誰が聞いてもその言葉が何だったかは分かる。

「夫を殺そうとする」という四文字に、橋本燃は彼の肌に触れる手がしびれるように感じた。

もはや以前のように自然ではなくなっていた。

温井時雄の体つきは確かに以前は素晴らしかったが、今は青あざと赤い腫れで蒸しパンのような上半身には、美しさのかけらもなかった。

しかし一度甘い言葉が始まると、人の心は揺れ動き始める。

橋本燃は目を閉じ、温井時雄の体を見ないようにして、マッサージしているのは男性ではなく、ただの蒸しパンだと自分に言い聞かせた。

そう自分を慰めながら、橋本燃は冷静を装って推拿マッサージを続けた。

元々橋本燃の推拿に何の違和感も感じていなかった温井時雄だったが、「夫を殺そうとする」というような親密で甘い言葉を口にしかけた後、橋本燃の手が彼の体に触れるところすべてに、しびれるような電流が走るように感じた。