彼女が自分と弟を救った迷彩の戦士は気絶前の幻覚だと思い、心の奥底に大切にしまっていたとき、彼は人々に囲まれ、まるで神の如く、清らかな姿で松本家のリビングルームに現れた。
スーツを着た彼は、冷たく傲慢で魅力的な、人を遠ざける雰囲気を漂わせていたが。
しかし橋本燃は一目で、彼が7年前自分を救った迷彩の戦士だと分かった。
どんなに彼の雰囲気が変わっても、あの目と声は変わらないからだ。
誰に対しても氷のように冷淡な彼が、唯一松本晴子に対してだけ、ハンサムで優雅な魅力的な笑顔を見せていた。
特に彼が松本晴子を見るときの眼差しは、羨ましくも心が痛むほど優しく愛情に満ちていた。
橋本燃は、長年心に留めていた男性と再会したのが、異母姉の結婚式の場であるとは夢にも思わなかった。
新婦の新郎として現れたのだ。
その瞬間は、橋本燃の21年の人生で初めて、骨身に染みる痛みと絶望を体験した時だった。
彼女と弟が冷たい井戸の底に閉じ込められ、死の淵にいた時の痛みよりも、もっと—息苦しかった。
だから松本晴子が交通事故に遭い、温井家が彼女に温井時雄の母親のために嫁いで厄払いをするよう求めたとき、彼女はしばらく迷った後。
たった二度しか会っていないのに、7年間も心の中に住んでいた男性と結婚した。
彼女は自分に言い聞かせた、松本晴子が目覚めたら、彼と離婚すると。
もし松本晴子が目覚めなくても、彼が彼女を愛そうが愛すまいが、彼女は10年間だけ彼を愛すると。
10年の期限が来て、彼がまだ彼女を愛していないなら。
彼女は彼と離婚し、それ以降は彼との縁を切ると。
3年の結婚生活はあっという間に過ぎ、彼女が彼を10年愛した後も、彼は依然として彼女を愛していなかった。
彼女は賭けに負けを認めた!
……
温井時雄が目を覚ますと、病室に橋本燃の姿がないのを見て、心にかすかな寂しさが湧いた。
両手を少し動かすと、あの耐えられないほどの痛みは消えていた。
腫れて疲れていた両目もすっきりと明るくなっていた。
体はまだ痛かったが、その痛みは彼にとってすでに耐えられるものになっていた。
以前なら、この程度の痛みで入院して休養する必要はなく、仕事をしながら体を徐々に回復させていただろう。