第62章 君は確かに特別だ

「大したことじゃないよ、彼女の退勤を待っているだけだから!」沢田慕人は松本晴子を見つめながら、口元に薄い笑みを浮かべていたが、声は冷たく距離を置いていた。

「周知の通り、沢田社長は公務多忙で、一分一秒が万単位の価値があるのに、どなたがそんな幸運な方で、沢田社長が時間を費やして辛抱強く待っているのかしら?」松本晴子は好奇心を持って尋ねた。

沢田慕人はエレベーターの方向に目を向けると、黒いスーツを着て颯爽と歩き、クールで凛とした印象を与える橋本燃がエレベーターから出てくるのが見えた。

「待っていた人が来たよ!」沢田慕人は橋本燃に手を振り、先ほどの松本晴子との会話での冷たさとは打って変わって、優しく明るい声で言った。「橋本燃」

「沢田慕人、どうしてここに?」橋本燃は沢田慕人を見て、少し驚きながら彼の方へ歩いていった。

「沢田社長がここで一時間も待っていた相手は橋本燃だったのね!」

「沢田社長が一時間も待つような人なら、きっと彼が大切にしている人に違いない」

「橋本燃がそんなに凄いとは思わなかった、沢田慕人のような人まで虜にするなんて」

「……」

周りでひそひそ話す人たちは自分たちの声が小さいと思っていたが、橋本燃は彼らの噂話を聞いていた。

「こんなに長く来ていたのに、どうして電話してくれなかったの」

「近くでプロジェクトの話を終えたところで、助手がこの近くに最近オープンした評判の良いレストランがあると言うから、君と一緒にランチを食べようと思ってね。仕事の邪魔をしたくなかったから、座って休みながら、君の退勤を待っていたんだ」沢田慕人は温かい笑顔で答えた。

「じゃあ行きましょうか!」

「ええ!」沢田慕人は紳士的に手で案内するジェスチャーをし、松本晴子を見て、冷淡な目で言った。「松本さん、さようなら!」

「沢田慕人の橋本燃を見る目がすごく優しくてキュンとする!」

「沢田慕人の橋本燃への溢れる愛情を見たわ、ああ、羨ましい!」

「二人はとても似合ってる、CPとして推したいわ!」

「バツイチなのにこんな素晴らしい男性を惹きつけるなんて、さすがHOTプロジェクトを獲得した女性、すごいわ!」

「……」

橋本燃と沢田慕人が一緒に去っていく姿を見て、小声で議論していた人たちは、一瞬にして内なる噂好きの因子が湧き出し、次々と大声で羨ましがった。