第63章 毒に寄生した虫の腫瘍

高橋先生の集中治療室の外で、高橋夫人は完全防備で顔の一部も見えない橋本燃を見て、少し不安そうに沢田慕人の方を向き、立て続けに質問した。

「彼が噂のジョイ医師なの?なぜ診察するのに素顔を見せないの?本当に腕はいいの?」

沢田慕人は微笑んで答えた。「奥様、ジョイ医師を慕って訪ねてくる人があまりにも多いんです。素顔を見られてしまうと、毎日診察しきれないほどの患者が押し寄せてしまいます。ジョイ医師は仕事とプライベートをしっかり分けている人なんです。」

「仕事が終われば完全に自由な時間を持ちたいと思っていて、邪魔されたくないので、毎回診察する時は完全武装しているんです。でも双子の妊婦を救った彼のニュースは、あなたもスマホで見たでしょう?彼の医術は絶対に信頼できるものです。」

「お母さん、村上白がせっかくジョイ医師を呼んでくれたんだから、彼を怖がらせないでよ。早くジョイ医師にお父さんを診てもらおうよ!」高橋建慶の息子、高橋為民が急いで諭した。

「そうよ、お母さん、村上白はいつも真面目で思慮深いわ。彼が呼んだ医師は絶対に一流だから、安心して!」高橋建慶の娘、高橋優子も同意した。

「わかったわ、時間がないわね。ジョイ医師、どうぞよろしくお願いします。必ず私の夫の病気を治してください。」高橋夫人は懇願するような目で橋本燃を見つめた。

目の前の老婦人は白髪一色で黒髪は一本もなかったが、肌はふっくらとして張りがあり、彼女がこれまでの人生を幸せに満ち足りて豊かに過ごしてきたことを物語っていた。

その疲れた瞳には、病気の夫への心配と深い愛情が満ちていた。

そんな愛に満ちた瞳を前にすると、彼女を悲しませたくないという気持ちになった。

「奥様、ご安心ください。私は全力を尽くします。」橋本燃の声は力強く響いた。

藤堂健太が駆けつけた時、数人の医師が集中治療室に入るのを見て、急いで足を速めて走った。

「待ってください、私も...」

藤堂健太は彼らがドアを閉めてしまうのではないかと恐れ、非常に速く走った。後ろの医師たちは彼が走ってくるのを見て、すぐに道を譲った。

しかし藤堂健太の足は滑ったかのように体がまっすぐ前に突っ込んでいった。