第82章 温井時雄は怒りで吐血しそうだ

「よくもやってくれたな、藤堂健太。だから前からうちのジョイのアイドルをけなしていたのか。お前はただの変態ホモ野郎だったんだな」温井時花の怒りの声が彼らの背後に響いた。

温井時花は素早く数歩で藤堂健太の前に立ち、彼のネクタイを引っ張り、凶暴な顔で脅した。「藤堂健太、警告しておくわ。うちのジョイ医師に手を出すんじゃないわよ。ジョイ医師は私のものよ」

「何が『お前のもの』だ。実を言うと、前に手術室で観察した限り、ジョイ医師は女だぞ。お前と結婚なんてできるわけがない。早く離せ、俺は窒息しそうだ」

「そんなはずない、ジョイの声は明らかに男の声よ。どうして女性なんてことがあり得るの?」温井時花は魂が抜けたような表情で、まるで精神的支柱が崩れ落ちたかのように苦しんでいた。

「あれは彼女が男性用ボイスチェンジャーを使って偽装していただけだ。あの日、彼女が首を掻いた時に耳たぶが見えた。耳に穴が開いているのを見たし、一瞬見えた喉にはのどぼとけがなかった。彼女が女性であることは間違いない」

藤堂健太の声はあまりにも確信に満ちていて、橋本燃本人でさえ、あの日自分が女性であることを無意識に露呈してしまったのかと思い返さずにはいられなかった。

「つまり、ジョイ医師は本当に女性なの?」

「確かだよ。性別を偽装する必要がなければ、なぜあんなに神秘的にする必要がある?堂々と人々に尊敬されればいいじゃないか。こんなに控えめに行動するのは、名声や利益に淡泊な女性だけができることだ」藤堂健太は再び断固として言った。

「私の恋が始まる前に終わってしまったのは悲しいけど、ジョイ医師をもっと尊敬するわ。彼女は私の医術の憧れにふさわしい。もっと一生懸命勉強して、ジョイのような素晴らしい女性になるわ」

藤堂健太は温井時花に応援のジェスチャーをした。「時花、そう考えるのが正解だ。君なら必ずジョイのような素晴らしい医者になれると信じているよ」

兄の俺でさえジョイの技術には太刀打ちできないのに、お前がジョイのようになるなんて不可能だ、永遠に不可能だ。

小娘、お前が兄の俺の医術に追いつけるだけでもいいほうだ。

温井時花は藤堂健太の言葉に応えず、空気の抜けた風船のように振り返って歩き始めた。

温井時花の魂の抜けたような様子を見て、橋本燃は心配そうに尋ねた。「時花、大丈夫?」