「急に思い出したけど、用事があるから先に帰るよ」高橋淮陽もそう言いながら急いで立ち上がった。「凛、待ってよ!」
高橋淮陽が大スターになる前は、家庭は貧しく、両親は通りで営む牛肉スープの小さな食堂で生計を立てていた。
父親が病気になったため、稼いだお金は生活費を除いて、残りはすべて父親の薬代に充てられていた。
淮陽は歌うことが好きで、両親の負担を減らすために歌唱コンテストに応募し、決勝まで勝ち進んだ。
しかし決勝の前夜、数人の不良に囲まれ、彼らは淮陽の舌を切り落として二度と歌えないようにすると脅した。
絶望的な状況の中、橋本燃が現れて彼を救い、無事にコンテストに参加して優勝することができた。さらに燃は、淮陽の舌を切らせようとした出場者を刑務所に送り込んだ。
燃はさらに淮陽の父親の病気も治し、希望のない人生を完全に変えてくれた。
それ以来、淮陽の努力目標は燃と結婚し、彼女を世界で最も幸せな女性にすることだった。
しかし燃のことを知れば知るほど、自分はふさわしくないと感じた!
だが彼は気にしなかった。燃がどれほど優れていようと、彼は燃が好きで、彼女と結婚する決意を固めていた。
淮陽が初めて燃に告白したのは、彼女の20歳の誕生日だった。燃は彼を拒絶したが、高橋俊年が彼の後ろに現れ、もっと優秀になれば優秀な燃にふさわしくなれると告げた。
それ以来、俊年は歌と演技しかできなかった淮陽に手取り足取り会社の設立や経営方法を教え、交渉に連れて行き、ビジネスのやり方を学ばせた。
しかし3年前、燃が温井時雄と結婚すると言い出した。
俊年は彼に「お前は脱落した!」と言った。
それ以来、俊年はビジネスを教えることをやめ、淮陽のエンターテイメント会社は3年前の時価総額のままで、進展がなかった。
燃が離婚した後、淮陽は俊年に燃への追求を続けると言った。
俊年は彼にこう言った。
「お前には無理だ!」
「お前は愚かすぎる!」
「お前は彼女にふさわしくない!」
侮辱するだけでなく、彼の前で燃への愛を表現することも横暴に許さなかった。
淮陽は俊年が自分を育てられない人間、燃を愛する資格のない人間だと思っていることを知っていた。
淮陽は納得がいかなかった。5年間愛してきた人をこのまま諦めるのは耐えられなかった。