「ここでは着替えないわよ。今から出かけるから、バイバイ!」橋本燃は彼らに向かって明るく笑いながら言うと、振り返って歩き出した。
燃が笑わなければよかったのに、彼女が笑った途端、隣にいた小林勝の手が不安定になり、持っていた茶碗がテーブルの上に落ちそうになった。
幸い彼の反応は素早く、茶碗をすぐに掴み、中のご飯がこぼれるのを防いだ。
「橋本燃、そこに立て。我々は任務を遂行するためにここにいるんだ。お前が無断で外出して行動を露呈させれば、万が一任務が失敗した場合、その責任を取れるのか?」温井時雄は燃の背中を見つめながら冷たく叱った。
「組織は無断外出を禁止なんて言ってないでしょ?人生得意須尽歓、まさにこの任務が危険だからこそ、実行する前に。
私はもっと可愛い服を買いに行って、美味しいものを食べて、自分の願いを叶えるべきじゃない?」燃は時雄の返事を待たずに、軽快な足取りでドアを開けて出て行った。
時雄は心中で非常に憤っていた。
何が彼女の願いを叶えるだ、まるで今回の任務も失敗するかのような言い方だ。
「お前たちは夕食を食べろ。俺は彼女を見張りに行く。彼女が行動を露呈させて我々に累が及ばないようにな。」時雄はそう言うと、急いで後を追った。
時雄が去ると、勝は睿を見て笑いながら言った。「あの邪気な女が着飾ると、こんなに美しく目を奪われるとは思わなかった。一生独身を貫こうと思っていた俺でも、あの可愛らしい姿を見ていると、嫁を娶りたくなるよ。」
「お前が欲しいのは嫁じゃなくて、燃だろ!」睿は冷たく言い放った。
親友に見透かされた勝は照れくさそうに笑って言った。「彼女、本当にカワイイと思わない?」
いつも勇敢で熱血漢の勝の顔に、普段では決して見られない赤みと恥じらいが浮かんだ。
「カワイイだって?お前は血と汗を流しても涙は流さない兵士だということを忘れるな。女々しい言葉遣いをするな。
さっきのお前の反応を見て、時雄はお前の目を潰したいくらいだったぞ。お前があの邪悪な女に手を出そうとしたら、彼はお前を八つ裂きにするだろうな。」
時雄は軍内で議論の的になる人物で、超お金持ちの家柄の出身だった。
彼の噂話は軍内でも知らない者はいないほどだった。
「温井時雄?彼は燃のことが嫌いなんじゃないのか?」