第180章 生まれながらの極悪人

「温井時雄は並外れた精神力を持っている。十年前、彼のために多くの戦友が悲惨な死を遂げるのを目の当たりにしても精神的に崩壊せず、ビジネス界で一大帝国を築き上げた。異能力で彼の意志を惑わし、我々の手駒にするのは容易ではないだろう。

面倒なことをして戦術を露呈させ、敵に隙を与えるくらいなら、温井時雄が山に上がってきたらすぐに射殺して後顧の憂いを断ったほうがいい」と、傍らに座り赤ワインのグラスを持った鬼塚閻が淡々とした声で言った。

「私はいつも七弟が役に立つ意見を出せるとは思っていなかったが、今回は彼に賛成だ。父上、万が一に備えて、温井時雄という駒は諦めるべきだ。世の中には大富豪は数え切れないほどいる。一人の温井時雄のためにリスクを冒す必要はない」と雷田壮一が付け加えた。

「雷王、温井時雄は非常に象徴的な例です。彼が情に厚く義理堅いからこそ、もし私が彼をあなたの手駒として調教できれば、他の富豪たちを従わせるのはさらに容易になります。

さらに重要なのは、温井時雄の人脈が途方もないことです。彼の友人たちもまた国家に匹敵する富を持ち、彼らは時雄の言葉に非常に従順です。一人の時雄を調教することは、複数の富豪を手に入れることと同じです。

彼は雷王がより早く十分な富を得て、我々の震国の領土を拡大し、世界に公に認められる国家になるプロセスを加速させる手助けができます。雷王が長年私を育ててくださったのも、結果を見たいからではありませんか?

もし本当に温井時雄を調教できなければ、その時点で彼を殺しても遅くはありません」と松本夕子は必死に主張した。

彼らの会話を聞いて、橋本燃は心底震えた。

調教!

彼らの目には、人間が家畜のように調教される対象でしかない。

彼らの目には、命とはそれほどまでに浮き草のように軽いものなのか?

松本夕子が安城に戻るやいなや、あれほど多くの人命を奪ったのも納得だ。自分を殺すことさえ、蟻を踏み潰すように簡単で、罪悪感など微塵もない。

そうか、彼女はとっくに人を殺すことに慣れていたのだ。

しかし、橋本燃を安心させたのは、夕子が当面は温井時雄を殺さないということだった。

そう思うと、燃は自嘲的な気分になった。

自分はもう死にかけているというのに、まだあの何度も自分を傷つけた犬畜生のような男のことを心配しているなんて。