第179章 松本夕子の真の身分

一時間後、車が停まった。

トラックのドアが開くと、目の前に広がる明るく輝く光景に橋本燃の心は震えた。

目の前には故宮のような宮殿が豪華絢爛に建てられていた。

故宮ほど大きくはないが、どの部分もより精巧で壮大だった。

門前には大きな口を開けた二体の石獅子が威厳を放ち、大門の上には金色の三文字「震国殿」と書かれていた。

大門の両側には、鎧を着た様々な肌色の男たちが十数人ずつ立っていた。

この光景を見て、燃は何故か笑いたくなると同時に、感心もした。

自分の目で見なければ、夢を見ているのかと思うところだった。

超大物麻薬王が山を占拠して皇帝となり、それも堂々とやっているのだ。

ほとんどの麻薬密売人が岩穴や地下室、墓場など人里離れた場所で密かに取引するしかないのに比べれば。

雷田震の人生はかなり派手だと言える。

「七公子、こんばんは!」大門の両側に立つ男たちが敬意を込めて挨拶した。

七公子?

鬼塚閻がここでは部下から七公子と呼ばれている。どうやら彼はここでは単なる殺し屋ではないようだ。

「この者を震天殿へ連れて行け!」

燃は鎧を着た二人の男に車から引きずり降ろされ、手錠と足枷をかけられた。

「あなたは私が抵抗する力もない死にかけの人間だと知っているのに、なぜ手錠と足枷を無駄にするの?」燃は前を歩く閻に尋ねた。

「お前が囚人であることを証明するためだ!」閻は振り向きもせずに答えた。

燃は「……」と言葉を失った。

善良な市民である彼女が麻薬の巣窟で囚人扱いされるとは、何という皮肉だろう。

長い廊下を通り、何度も曲がりくねった道を進んだ末、ついに豪華絢爛な震天殿の前に到着した。

「七公子、こんばんは!」震天殿前の使用人たちも同様に敬意を込めて挨拶した。

燃が震天殿に入ると、六十歳過ぎの威厳のある顔立ちの男が、黄色の龍の刺繍が入った唐装を着て、龍の模様が彫られた椅子に座っていた。

彼の背後には龍と鳳凰の浮き彫りがあり、大殿全体が非常に壮大で華麗に建てられていた。

考えるまでもなく、威厳に満ち、鋭い眼差しで、恐ろしいオーラを放つその男こそが、山を占拠した超大物麻薬王の雷田震に違いなかった。

六十歳を過ぎているにもかかわらず、非常に力強く威厳があり、このまま行けば百歳まで生きることも問題なさそうだった。