第189章 私の秘密を守って

温井時雄は表情を平静に保ち、からかわれた怒りを少しも見せなかった。「君が簡単に解毒方法を教えてくれないことはわかっていた。蝗を食べたのは、ただ君を喜ばせるためだ。

この残酷な世界で、君の命が危うい時に、少しでも喜びを残してあげたいと思った。

そして、私が命を懸けて君を喜ばせようとしていることを見て、本当の解毒薬を橋本燃に与えてくれることを願っている。お願いだ!」

時雄は痛みに耐えながら懇願し、喉に塩辛い鉄の味が込み上げ、黒ずんだ血を吐き出した。

これは時雄が生涯で初めて人に頭を下げて懇願したことだった。

彼の赤く染まった瞳には真摯な懇願の色が満ちていた。

佐藤真珠が彼の誠意を見て、燃の命を救ってくれることを願っていた。

今この瞬間、息も絶え絶えの燃を見て、彼は初めて燃が自分の心の中でどれほど重要な存在か知った。想像していたよりもずっと大切な人だった。

燃が無事に生きていられるなら、彼は喜んで自分の命と引き換えにする覚悟があった。

真珠は時雄の真摯な眼差しに心臓が急に締め付けられる思いがした。

彼女はこれまでの人生で、一人の男がここまで誠実に一人の女性のために尽くす姿を見たことがなかった。

彼は彼女を喜ばせるため、燃に解毒薬を与えてもらうため、彼女がからかっていることを知りながらも、変異して猛毒を持つ蝗の王を食べたのだ。

世の中にこんなに情熱的な男がいるだろうか?

「ハハハ、私はこの人生で愛を得られなかった。私が一番嫌いなのは、恋人たちが結ばれて幸せな結末を迎えることよ。

たとえあなたが命を懸けて私を喜ばせようとしても、解毒薬はあげないわ、ハハハ……」真珠は顔を歪ませて大笑いした。

「佐藤真珠、あなたは本当に狂っている、もう救いようがない。私は善意で接するべきではなかった。

あなたがこんなに冷酷だと知っていたら、毎日腐ったものを食べさせるべきだった。

そうすればもっと早く死んで、罪のない人を傷つける機会もなかったでしょう」おばあさんは痛烈に非難した。

時雄は自分が千年の寒氷の中に閉じ込められたかのように感じ、体は極限まで冷え切っていた。

内臓は言葉では表現できないほどの痛みに襲われていた。