橋本燃の威嚇に満ちた美しい笑顔を見て、山本煜司は慌てて後ずさりしながら、スマホを橋本燃に向けた。
「お嬢様が手を下さなくても結構です。今すぐ削除します、今すぐ!」
温井時雄から、橋本燃が身を危険にさらして高橋将軍を助け、数十年間悪事を働いてきた超大物麻薬王の雷田震を倒したという話を聞いた後。
もともと燃に対して頭が上がらなかった煜司は、今では彼女を菩薩のように祀って長寿を祈りたいほどだった。
燃が近づいてくるのを見ると、彼にはただ素直に従うしかなく、少しでも反抗する勇気などなかった。
「このビデオがもしいつか流出したら、あなたの責任よ」燃は冷たい目で言い終えると、煜司の返事を待たずに大股で立ち去った。
燃の背中を見つめながら、煜司は小声でつぶやいた。「こんなにカッコよくて美しい女性が、時雄社長のものじゃないなんて、天に背くようなことだ」
少し歩いた後、高橋俊年は燃を見て静かに尋ねた。「傷ついた?」
「何が傷つくって?」燃は不思議そうに聞き返した。
俊年は少し離れたところで明るく笑っている林田笑々と温井時雄の方を見た。
「あの二人のイチャイチャを見る勇気もないなんて、傷ついてるんじゃないの?」
燃は呆れて目を回した。「礼に反することは見ず、聞かず。私はただ目にトゲが刺さりたくないだけよ。
私と彼の間には今何の関係もないわ。彼が何をしようと、私の気持ちには少しも影響しない」
この点について、燃は少しも嘘をついていなかった。これだけのことを経験した後、時雄が彼女の目の前で他の女性を守るのを見ても、燃の心には何の感情も湧かなかった。
あるのはただ、もし彼がまた彼女に手を出そうとするなら、彼女は躊躇なく目には目を、歯には歯をで仕返しし、彼に彼女が簡単に手を出せる相手ではないことを知らせてやるという思いだけだった。
……
『天命鳳后』というドラマのあらすじは、ヒロインの山田無双が霊国の姫で、離国で最も寵愛されていない恭王の井上夜琰と政略結婚するというものだ。
結婚の道中、太子の刺客に襲われ、恭王に罪を着せられる。恭王が山田無双との結婚を望まず、密かに彼女を殺害したという偽りの状況を作り出し、恭王を完全に排除しようとする陰謀だった。