第229章 元妻に良い夫を見つける

実験室に戻った橋本燃は、無菌手袋をはめて青い液体の入った容器から黒ずんだ実験用の廃棄肺を取り出し、メスで激しく切り刻み始めた。

小さく切り刻まれていく肺を見ながら、藤堂健太は橋本燃が温井時雄を激しく切り刻んでいるような錯覚を覚えた。

「燃さん、時雄さんはあなたの前ではいつも敬意を示していますよ。ただ子供の前でちょっと口が滑っただけです。怒らないでください」藤堂は本心とは裏腹に諭した。

彼は温井時雄と燃が兄弟のように親しくしている本当の理由を知っていた。それは高橋俊年が温井家に対抗するのを恐れて、時雄が本心に反して燃と親しくしているだけだということを。

藤堂は時雄が燃を利用していることを内心好ましく思っていなかったが、時雄とは幼い頃から一緒に育ち、深い友情で結ばれていた。

さらに、彼は幼い頃から家庭で父や兄、姉からビジネス戦略について耳にしてきたため、時雄にはやむを得ない事情があることを理解していた。

だから彼は誠心誠意、時雄のために弁解した。

「彼のために弁解する必要はないよ。彼がいつも私の前で表裏のある態度を取っていることは知っているわ。面と向かっては一つの顔を見せて、裏では別の顔を持っている。明日は試合だから今は彼と争わないけど、試合が終わったら、あの人間のふりをした犬みたいな奴と徹底的に清算するつもりよ!」燃は言いながら、廃棄肺を切る手の動きがさらに速くなった。

燃の目には、まな板の上の廃棄実験品が黒い心臓と黒い肝臓を持つ温井時雄に見えていた。それを粉々に切り刻んでこそ、彼女の胸の恨みが晴れるのだった。

傍らで藤堂は燃の素早く動く手を見つめながら、瞳に思考の色が浮かんだ。

数日間の朝夕の付き合いを通じて、藤堂は燃が物事に取り組む際に冷静で、どんなに危機的な状況でも落ち着いて対応できる人間だと理解していた。

ただ時雄に対してだけは、はっきりとした好き嫌いの感情表現を見せるようだった。

怒りに燃えて廃棄実験品にストレスを発散する燃の横顔を見て、これが伝説の「憎しみが深いほど、愛も深い」というものなのだろうか?

そして今日の時雄も、とても変だった。

彼の時雄に対する理解では、時雄は人の悪口を陰で言うような人間ではなかった。

ましてや子供の前で、それも患者の前であんな意地悪な言葉を言うなんて。