第231章 笑顔の男、あなたは一体誰なのか

橋本燃が動かないのを見て、温井時雄は震える手を彼女の鼻の前に伸ばし、呼吸が安定していることを感じ、命に別状がないと分かってようやく少し安心した。

「ごめん、また怪我をさせてしまった」

時雄は燃の唇が明らかに毒に侵されて青黒くなっているのを見て、心の中で深い罪悪感を抱きながら謝った。

体中の激しい痛みで何度も気を失いそうになったが、時雄は人中を強く押さえ、意識を保ち続けた。そうしているうちに山本煜司が急いで人を連れてやってきた。

「温井社長、どうしてこんな重傷を負ったんですか?あの殺し屋たちの能力はなぜあんなに高かったんですか?」山本は顔色が青白く、人中を押さえすぎて血が出て、泥だらけで惨めな姿の時雄を見て、声を震わせながら心配そうに尋ねた。

「時雄、君と橋本さんは腕が立つのに、こんな重傷を負うなんて、誰がそんな容赦ない攻撃をしたんだ?」藤堂健太は心配と恐れを抱きながら尋ねた。

「もし彼女と一緒になりたいなら、彼女に言いなさい。あなたが彼女の命の恩人だと。この恩義があれば、彼女を追いかけるのはもっと簡単になるよ」時雄は笑顔の仮面を健太の前に置き、弱々しい声で言った。

健太は瞳孔を縮めた。「何を言っているんだ?君は私と橋本さんが一緒になるのを望んでいないんじゃなかったのか?」

数時間前の病院の病室で、健太はまだ時雄が橋本燃は彼に相応しくないと厳しい言葉で言い、彼女と彼が一緒になることは許さないと言うのを聞いていた。

なぜ今になって命がけで橋本さんを救い、彼に恩人を名乗らせ、彼と橋本さんを結びつけようとするのか?

「橋本さんには『やめろと言われたらやりたくなる』という反抗心があることを知っているから、わざとあんな挑発的な言葉を言ったんだ。

君は幼い頃から一緒に育った兄弟だ。君がめったに好きにならない人を好きになったのに、どうして君の望みを断ち切れるだろうか?

以前は橋本さんが晴子を植物人間にする計画を立てたと思い込み、色眼鏡で彼女を見て、彼女を深い計算のある女性だと思っていた。

でも彼女が日々、細やかに母を世話する姿を見て、彼女が優しい人だと深く理解した。ただ私の心には深く愛する晴子がいて、もう他の女性に優しくすることができず、だから心にもないことをして橋本さんを冷たくあしらっていた。