残念ながら、彼の頑固な兄は愚かな忠誠心と愛情を持ち、いわゆる責任と道徳を守り通し、橋本燃に対して極めて冷淡だった。
橋本燃のような優秀な女性が、自分の才能を隠して彼の兄と結婚したのは、きっと愛があったからだろう?
彼は何度も兄に目の前の人を大切にするよう忠告したが、残念ながら兄は責任感と道徳に縛られ、自分の心と向き合おうとしなかった。
今このような状況に陥ったのは、因果応報、天は誰をも見逃さないということなのだろうか?
時間は刻一刻と過ぎ、すぐに午前2時になったが、燃は実験に没頭し、少しの疲れや眠気も感じていなかった。
温井時潤は見かねて、優しく促した。「田中博志のチームがこれほど長く研究しても手がかりがないということは、かなり難しいウイルスなんでしょう。あなたもすぐには解明できないと思います。体が大事ですから、今日はまず帰りましょう。明日また私が付き添ってここで実験するので、一晩休めば新しい解決策が見つかるかもしれませんよ」
燃は実験台の前で3時間座り続け、無数の実験を行ったが、どんな戦略を変えても結果は失敗だった。
失敗はすなわち、あの人が死ぬことを意味していた。
彼女は温井時雄が勝手に彼女のために「良い男」を手配することを非常に嫌っていたが、それでも時雄が彼女の毒を解くために死ぬことは望んでいなかった。
時雄を救った後は、彼がどう死のうと彼女には関係ない。
「疲れていないわ。もう少し実験させて。あなたはそこのリクライニングチェアで休んで、終わったら起こすから」燃は顔も上げずに答えた。
時潤は彼女の頑固さを見て、それ以上促すことはなかった。彼もリクライニングチェアで休むことはしなかった。
彼は医術に詳しくなく、薬物を混ぜ合わせた時の薬理反応も理解していなかったが、それでも彼は傍らに座り、燃が何度も何度も実験を繰り返す様子を興味深く見つめていた。
いつの間にか、窓から陽光が差し込んできた!
夜が明けたが、燃の実験はまだ失敗していた。
一晩中何度も失敗を繰り返し、燃の心はますます挫折感に満ちていった。
「時潤、行きましょう」燃は実験台で眠り込んでいる時潤を見て、力なく言った。
時潤は燃に付き添って午前4時半まで起きていたが、さすがに耐えられずに少し目を閉じていた。燃の声を聞いて即座に目を覚ました。