第273章 君子は礼をもって接する

高橋菜々子は遠くに立って彼女に向かって歯を剥き出して威嚇している小林勝を見て、悔しそうに何度か足を踏み鳴らした。

本来なら今日の高橋啓山の誕生日パーティーには、彼女のおじいさんは彼女が高橋夢耶と喧嘩することを恐れて来させないつもりだった。

しかし彼女はあまりにも退屈で、さらに今日は橋本燃も参加するので、兄と燃の間に接点を作って赤い糸を結びたいと思い、長い間懇願してようやく来ることができた。

彼女は大人しく言うことを聞くと約束したのに、結局、高橋啓山のパーティーで大恥をかいてしまった。

「お兄ちゃん、私が騒ぎを起こしたんじゃないわ。彼が先に私のことを『チビカボチャ』って呼んだのよ」

菜々子は小声で説明した。彼女が転びそうになった時、軍服を着た男性の腕を掴んだことを思い出した。彼が冷たく彼女を突き飛ばさなければ、彼女はこんなにも惨めに転んだりしなかったはずだ。

おまけに24年間大切に守ってきたファーストキスまで失ってしまった!

そう思うと、菜々子は顔を上げて軍服を着た男性を探した。彼が少し離れたところに背を向けて立っているのが見え、数人のお嬢様たちが彼に向かって花のように笑みを振りまいていた。

菜々子の目に嫌悪の色が浮かんだ。あんなに神聖な服を着ているくせに、蜂や蝶を引き寄せるような軽薄な行為をするなんて、あの制服を着る資格なんてない。

彼のせいでファーストキスを失ったことを思い出し、菜々子は怒りに駆られ、俊年の手を振り払い、拳を握りしめて田中黙に向かって素早く歩み寄った。

黙の背後に近づくと、菜々子は拳を振り上げて彼の頭に向かって打ち下ろした。

しかし彼女の拳が黙の頭から数センチのところまで来たとき、黙の体が素早く回転し、瞬時に菜々子の手首を掴み、彼女の腕を背中側に回して前かがみに押さえつけた。

菜々子は自分の武術はかなりのものだと自負していた。だから小林勝のようなやつは彼女を見るたびに逃げ出すしかなかった。

彼女に勝てないからだ!

まさか彼女が攻撃しようとした千載一遇のチャンスに、逆に彼に制御されるとは思わなかった。

背後のこの男性の身のこなしはどれほど強いのだろう?

「恥知らずめ、早く離しなさい!」