田中黙は躊躇なく頷いた。
山本煜司はそれを見て、急いで反論した。「隊長、よく考えてください。この二年間、命を顧みず任務をこなし、不可能と思われることを成し遂げてきたじゃないですか。やっと戦区でこれほどの信頼と威信を得て、多くの人があなたを心から尊敬しているんです。今こそ勢いに乗って前進すべき時なのに。
それなのに、この時期に戦区での成果を捨てて、全く新しい部署に異動するなんて。あなたが命がけで積み上げてきた功績は、他人の踏み台になるだけですよ。
あれだけの血を流し、何度も命の危険にさらされたのに、それを他人に奪われるなんて、割に合いますか?」
「大きな木は風を招く。この二年間で昇進が早すぎた。少し休む時期だ。それに、お前は自分の隊長の能力を信じていないのか?金は何処に置いても輝くものだ。私のことを心配する必要はない」田中は無頓着に言った。
軍人になることは彼の幼い頃からのヒーロー願望だった!
彼は大きな地位や高い職位を望んだことはなかった。
軍に入ってからの数年間、彼は多くの人々を救い、何度もヒーローになった。
子供の頃の夢はとうに実現していた。
今、彼は自分のために生きたいと思っていた。
自分のペースを落とし、自分の望む生活を送り、好きな人を追いかけたいと。
「でも……」
山本の言葉は藤原錦一に遮られた。「隊長の言う通りだ。ペースを落とすのもいい。隊長のような昇進速度だと、最も警戒するのは大統領府のあの方だ。隊長が異動を受け入れることで、あの方に対する姿勢を示したことになる。これこそ塞翁が馬、禍福は予測できないという隊長の知恵だ。もう説得するのはやめろ」
山本は心の中で冷笑した。確かに藤原の言うことにも一理あるが、隊長が異動を受け入れる最大の理由は橋本燃のためだということを彼は知っていた。
一度異動命令を受け入れれば、隊長は一品大将軍から都市計画局の四品都市計畫長になる。
二品大官が簡単に見つかる帝都で、四品都市計畫長がどれほど苦労するか、彼は指を動かすだけで想像できた。
橋本燃、お前は本当に災いの元だ!
「異動命令を受ける前に、まず一つのことを片付けよう!」田中は窓の外に消えていく墓地を見つめながら、氷のように冷たい声で言った。
……
高橋家の寝室!