「このことについては、あなたに心から感謝の言葉を言わなければなりません。あなたの助けに感謝します。あなたがいなければ、帝都で何の地位も持たない私では、こんなに早く結果を出すことはできなかったでしょう。祖父母が早く安心できるようにしてくれて、ありがとう」橋本燃は田中黙の非凡に端正な顔を見つめ、誠実な眼差しで言った。
田中黙はじっと橋本燃を見つめ、薄い唇を開いた。「帝都に残れ!」
黙の声は安定していて、懇願も卑屈さもなかった。
まるでごく普通のことを述べているかのようだった。
彼は帝都でまだ終わっていない仕事があるとはいえ、彼女がどこにいようと、そこで働くという決断をすでに下していた。
だから、彼女が残りたくないなら、無理強いはしない。
彼女が残ることを望むなら、それは彼が今後やるべきことにとって都合がいい。
燃は彼の視線に心が急に引き締まる思いがした。彼女はようやく気づいた、もう帝都に残る理由がないことに。
以前、帝都に一年滞在すると言ったのは、小林玲子の家族の力を考えると、一人の力で玲子を倒すには長期間の計画が必要だと思ったからだ。
しかし黙は彼女の祖父の葬儀の翌日に、迅速かつ確実な証拠で犯人を法の裁きにかけた。あとは司法手続きを経て判決を待つだけだ。
「いいえ、私はここに永遠に残るつもりはありません!」
わずか数日の間に彼女を本当に愛してくれた二人を失い、帝都は彼女にとって悲しい場所であり、そんな場所で生活したくなかった。
燃の答えは、黙が予想していた通りだった。
彼女はもともと彼を嫌っていたし、二人の近親者も失った。彼女が帝都に残りたくないのは当然だ。
「わかった、君の行きたいところへ行けばいい。君が幸せなことが一番大切だ」黙は窓の外を見ながら、静かな声で言った。
彼は燃の方を振り向く勇気がなかった。振り向いて彼女の顔を見たら、彼女に残ってほしいと懇願してしまいそうだった。
しかし、それらの仕事は、彼が時々戻って処理すればいいだけのことだ。
彼は自分勝手に彼女に残るよう頼むことはできない。
無理強いすれば彼女は不幸になる。今の彼は彼女に少しでも不幸を感じさせたくなかった。
なぜかわからないが、彼の答えを聞いて、燃の心臓が急に締め付けられるような感覚があり、何とも言えない重さを感じた。