雷田琰は橋本燃を一瞥し、冷たい声で言った。「師匠を盾にするな。今回の身を餌にした作戦については、夜に帰ってから、お前とじっくり清算するからな。」
雷田琰は言い終わると橋本燃の方を向いた。「橋本社長、あなたに頼まれたオフィスビルの件ですが、いいところを見つけました。時間があれば、今から一緒に見に行きませんか?」
以前、琰に事務所を探させたのは、小林玲子との長期戦を覚悟していたからで、仕事の一部を帝都に移す準備をしていたのだ。
今や小林母娘は法の裁きを受け、遅くとも半月で判決が下る。まだ仕事を帝都に移す必要があるのだろうか?
「見に行こう!」燃は少し迷った後、小声で言った。
「お嬢様を家に連れ帰って、しっかり見ていろ!」琰は後ろの人間に厳しく命じた。
「はい、ご主人様!」
「お兄ちゃん、私は帰れないわ。病院に残って患者さんの世話をしなきゃ。彼は私を救うために足を怪我したのよ。お礼を言うのが当然でしょう。」
「いくらでも金は出せる。お前が直接看病する必要はない。連れて行け。」
ボディーガードが近づいてくるのを見て、雷田さくらは急いで橋本燃の腕にしがみついた。「師匠、助けて!あの人は口は悪いけど、彼の足が治らなかったら、私は一生後悔するわ。彼に恩を借りたくないの。」
「彼の足は大丈夫だ。何かあれば、私に電話をよこすだろう。お前は汗臭いし、目の下にクマもできている。家に帰って休んでから、また彼を見舞いに来なさい。」
「え?私、クマができてるの?じゃあ急いで家に帰って寝なきゃ!」さくらは言うなり、一目散にエレベーターに駆け込んだ。
クマができていると聞いて、顔色を変え、急いで家に帰って寝ようとするさくらの姿を見て、燃は思わず微笑んだ。
やはり大きくなったな、美しさを気にするようになったのだ。
……
30分後、燃と琰は30階建て、築40年のオフィスビルの前に到着した。
これは周囲数キロで最も高いオフィスビルだった。
「市の中心部にあるという立地以外、このビルは他のオフィスビルと比べて何の優位性もないね。」燃は一目見ただけでそう評価した。
「中に入ってからもう少し見てみましょう。古いですが、オフィスビルとしては十分使えます。」
琰の目利きを、燃はいつも信頼していた。
結局のところ、琰は不動産業界での投資で一度も失敗したことがなかったのだ。