第315章 もう悲劇を演じるのはやめて

林田隼人が電話を切って急いで立ち去ると、橋本燃と雷田琰が隠れていた角から出てきた。

先ほどの林田隼人の電話の内容は、二人ともはっきりと聞いていた。

「人妻と不倫か。この林田隼人は人格に問題がある。こんな男と取引するのは慎重にすべきだな」と燃が口を開いた。

「他の都市ではそういうことに慎重になる必要があるけど、帝都では珍しくもない。ここは機会も多いが障害も多い。ビジネスをスムーズに進めるために、見た目のいい実業家たちは役人の奥さんと関係を持って、枕元の言葉で便宜を図ってもらうんだ」と琰は当然のように言った。

燃のビジネスは他の都市に集中していて、帝都での展開はなかった。一方、琰はこちらで不動産事業に多額の投資をしていた。琰がそう言うなら、間違いないだろう。

ある役人が林田隼人のような吊り目の気持ち悪い男に妻を寝取られながらも便宜を図っていると思うと、その男性が不憫に思えてきた。

同時に、その女性の自尊心のなさにも嫌悪感を覚えた。同じ女性として、そのような腐った一部の存在に吐き気を催した。

結婚生活が不幸なら離婚すればいい。地位にしがみつきながら快楽を求めるなんて、パートナーに不公平だと思わないのだろうか?

「そんな女性がいることを恥じる必要はないし、その夫を哀れに思う必要もない。彼は妻以上に遊び回っているかもしれないよ。地位と身分のある人間は、円満な結婚生活で利益を結びつける必要があるんだ」と琰は燃の考えを見抜いて説明した。

琰にそう言われ、燃はすぐに気持ちが晴れた。

林田隼人の富と地位は並ではない。彼に誘惑された女性の夫も、きっと大きな力を持っているはずだ。

琰の言うとおり、その男は女性以上に遊び回っているのかもしれない。

オフィスビルを出た後、燃は琰に案内された数軒の別荘を見に行った。

今後、帝都に来る機会は少ないだろうが、ホテルに泊まると誰かが自由に出入りできる。自分の家なら、無断侵入になるので、ある人物から身を守ることができる。

いくつかの別荘を比較した後、燃は錦園住宅区の一軒を決めた。

高級な内装が施された別荘で、定期的に管理人が手入れをしているため、すぐに住むことができる。

家を決めた後、燃は琰と別れ、車で田中黙の田中邸へ向かい、自分の荷物を取りに行った。