「どうしよう?」雷田さくらは藤原錦一を見た。
「どうもこうもないだろう?早く追いかけろよ。彼の怪我は軽くないんだ。お前が余計な親切をしたせいで、今また熱を出してる。早く治療しないと、結果は深刻になるぞ。早く追いかけろ」
「はい!」さくらは急いで追いかけた。
しかし田中黙の歩みは速く、彼女が外に出た時には、もう姿が見えなくなっていた。
さくらは間違いを犯した子供のように病室に戻ると、錦一は彼女がダチョウのように頭を下げている様子を見て、すべてを理解した。
「見失ったのか?」
「うん、どうしよう?先生の手はとても熱かった。熱は軽くないわ。早く解熱しないと、意識不明になって命の危険があるかも!」さくらは心配そうに言った。
錦一は眉をひそめ、沈んだ声で言った。「渡辺おばさんに電話して、黙が家に着いたら解熱剤を飲ませるように言おう」
渡辺おばさんに電話をかけると、黙が休暇をくれたので、今は息子の嫁の家で孫の世話をしているという。
錦一はすぐに山本煜司に電話をかけ、電話を受けた煜司はすぐに車で田中邸に向かい、黙を待った。
しかし30分待っても黙は戻らず、再び錦一に電話をかけると、錦一は慌てて煜司に人を派遣して黙を探すよう指示した。
さらに1時間探しても黙の消息はなく、錦一は自ら探しに行こうとしたが、さくらにしっかりと引き止められた。
「あなたの足の怪我は動かしちゃダメ。今二次骨折したら、足が不自由になる可能性があるわ。そうなったら戦地に戻るチャンスはなくなるわよ」
「田中さんがいなくなったら、俺は戦地に戻る気もないよ。早く離せ!」錦一は焦って言うと、さくらの手を外そうとした。
さくらは錦一の腰をしっかりと抱きしめ、ベッドから降りるのを阻止した。「あんなに大勢で探しても見つからないのに、病人のあなたが行っても見つかるとは限らないわ。あっ、そうだ!あなたが彼は温井時雄だと言うなら、師匠に探してもらえばいいわ。師匠なら彼がどこにいるか知ってるはず!」
さくらの言葉を聞いて、錦一はすぐに抵抗をやめた。
抵抗をやめた錦一は、目の前の少女との姿勢がどれほど親密かに気づいた。
少女は彼の膝の上に座り、両手で彼の腹を抱き、両足で彼の腰に絡みつき、顎を彼の肩に乗せ、温かい息が彼の耳の下の首に当たっていた。
チクチクとした痒さが、心をかき乱すほどだった。