「彼は温井時雄だと認めていないけど、私たちは彼が時雄だと知っています。師匠が彼を好きでなくなったなら、私が彼を好きになってもいいですか?」
雷田さくらの声は慎重さと期待に満ちていて、橋本燃は振り返って彼女の精霊のように純粋な顔を見る勇気が出なかった。
さくらの顔を見たら、思わず承諾してしまいそうで怖かったのだ。
この状況に追い込まれて初めて、あの男を他の女性の側に押しやることが、彼女にとってどれほど心が痛むことなのかを実感した。
しかし、あの男は彼女に数日間執着した後、風のように彼女の世界から消えてしまった。
今日の法廷でも、彼女に一瞥さえくれなかった。どうして彼を他人に譲らないでいられるだろうか?
彼は一度も明確に彼女のものになったことがないのに、誰が彼を好きになってもいいと決める資格が彼女にあるのだろうか?
「いつから彼のことを好きになったの?どうして今まで一度も聞いたことがなかったの?」燃は勇気を振り絞り、振り返ってさくらを落ち着いた目で見た。
「2年前からです。彼が宿題を教えてくれた時、あの美しい顔を見て、その比類なき容姿に深く魅了されました。
その後、彼が授業をしてくれる時、どんな退屈な題材でも、彼はいつも簡単でユーモアのある方法と言葉で説明してくれて、彼の賢さと才能に感服しました。
彼が自分の命が長くないことを知りながら、あなたのためにひそかに計画を立てていたのを見て、彼の一途さに感動しました。その時、私は思ったんです。私の体が健康になって、良い大学に合格したら。
もしあなたがまだ彼を好きにならないなら、私は彼に告白して、彼の妻になって、一生涯彼を大切にしたいと。
その後、私は優秀な成績で大学に合格しましたが、彼は飛行機事故で亡くなりました。私はもう彼との縁はないと思っていましたが、再会したのは、私が人質となり、彼が戦士として私の前に現れた時でした。
師匠、あの時の私の気持ちがどれほど興奮していたか分かりますか?私は18年生きてきましたが、あの瞬間ほど幸せで嬉しかった日はありませんでした。
彼がいれば、私は絶対に大丈夫だと知っていました。その時、心の中で自分に言い聞かせたんです。今回生きて帰れたら、絶対に先生に告白すると。
彼に、私は彼のことが大好きで、生涯彼と共にいたい、命の終わりまでと伝えたいと。」