第344章 彼に甘さを与えたなら、もう苦しませないで

二年ぶりに再会した後、橋本燃は田中黙が彼女に対して距離を置いていると感じた。

二年前とは違って、礼儀正しくはあるものの、その眼差しには優しさがなかった。

今回、彼女が大統領宮の門前に着いたとき、黙はただ挨拶を交わしただけで、それ以上何も言わなかった。

藤原錦一とは違って。あのゴシップ好きな口は質問を止めなかった。彼女が田中黙と仲直りしたのかどうか、黙は良い男だから真心を捧げる価値があるなど、様々なことを聞いてきた。

「さあ、話してください」燃は穏やかな笑顔で黙を見つめた。

「二年前、あなたは重傷を負って瀕死の状態だった上司を荒野の廃墟に置き去りにした。このことは私を非常に怒らせた。あなたがとても冷酷で、冷淡で情けないと思った。

あなたのような冷血な女性は、上司が命をかけて深く愛する価値がまったくないと思う。でも上司はあなたを愛している。この二年間、あなたの名前は最高の敬意を込めて彼のすべての服と帽子に縫い込まれ、任務に出るときも常に一緒だった。

彼が怪我で意識を失ったとき、呼んだのはあなたの名前だった。彼が重傷で手術の痛みに耐えられないとき、叫んだのもあなたの名前だった。彼は食堂の食事が美味しくないと文句を言い、あなたの料理の味を必死に練習した。

彼は苦しく疲れた生活の中であなたの影を探し、それを慰めとしていた。彼のあなたへの愛が骨髄まで染み込んでいることを知っている。私がどれだけあなたが彼を捨てたことに怒っても、彼があなたと一緒にいる決意を阻止することはできない。

今日、あなたたちが心の結び目を解いて互いを受け入れたとき、私は彼の顔に、子供が大好きなキャンディーを手に入れたような満足感、幸せな笑顔を初めて見た。

彼がずっとこのように幸せでいられることを願っている。だから頼む、これからどんなことが起きても、上司の心を傷つけないでほしい。この二年間、彼は体内のウイルスと戦いながら、あなたを思い、命を顧みず必死に働いてきた。彼は本当に苦しい、苦しい日々を過ごしてきたんだ。

あなたが彼に甘さを与えたのなら、もう彼を苦しめないでほしい」山本煜司は真摯な眼差しで燃を見つめて言った。