第350章 彼女の親指男子になりたい

二人とも情熱が高まり、橋本燃は思わず彼に言いそうになった。どうしても我慢できないなら、新婚初夜を待たなくてもいいよ、と。

しかし昨日、彼にからかわれた後、橋本燃は全身が力なく柔らかくなっても、自分から切り出す勇気はなかった。

しばらくして、二人とも息を切らせた後、田中黙はようやく彼女の唇から離れて身を起こした。

「朝食ができたよ。起きて顔を洗って食べよう」黙の声は優しく、氷河をも溶かすようだった。

朝目を覚ますと、おはようのキスと朝食が待っているという感覚に、燃は心が温かくなり、言葉では表現できない幸せを感じた。

「洗面所まで抱っこして!」燃は両手を伸ばし、少女のように甘えた。

甘える女性が一番幸せになれるって聞いたことがある。

彼女は小さな女性ではないが、彼の前では小さな女性になりたかった。

もう一つの理由は、キスで手足がふらふらになり、しばらく歩けそうにないということだった。

「喜んで!」黙はそう言いながら、軽々と燃を抱き上げ、洗面所へ向かった。

燃は洗面台の前に立ち、黙が彼女のために歯磨き粉をつける温かい瞬間を楽しんだ。

顔を洗い終え、燃は服を着替え、二人は指を絡ませながら階下のダイニングルームへ向かった。

黙は保温ボックスから朝食をテーブルに出し、二人で温かい朝食を共にした。

「今日は君専属の運転手として、出勤と退勤の送り迎えをするよ!」

「大統領宮には行かないの?」燃は不思議そうに尋ねた。

「大統領が、あの連中は俺を見ると気が滅入るから、あの老いぼれたちを悩ませるなと言ってね。都市計画課への辞令が下りるまで待つことになったよ」黙はそう言いながら車のドアを開け、燃を助手席に座らせた。

愛する人が側にいるせいか、燃は会社への道中、道端の景色がいつもより美しく見えた。

道中、二人は話が尽きず、10分はあっという間に過ぎた。

旭昇グループの地下駐車場で、黙は優しい眼差しで燃を見つめた。「行っておいで。退勤時に迎えに来るよ!」

以前、燃は恋人同士が24時間連体児のようにべったりしたいと言うのを聞いて、大げさだと思っていた。

今、自分がその立場になって、本当に糊と漆のように離れがたい気持ちを体験していた。

彼女は本当に黙と離れたくなかった。

たとえ数時間でも。