「何を言ってるの、そんなことないわ、ないわよ!」
「目線がそんなに早く動いて、否定もそんなに早いなんて、明らかに後ろめたいわね。高橋淮陽はイケメンだし、あなたを一年以上追いかけてきたのよ。あなたたちはもうそこまで親密になったんだから、彼の彼女になる時じゃないの?」
高橋淮陽が佐藤淘子を追いかけていることは、橋本燃はとっくに知っていた。
なぜ淮陽を受け入れないのかと淘子に尋ねたこともある。以前は淘子が淮陽を憧れの存在として見ていたのに。
でも淘子は淮陽に対して何も感じないと言うだけだった。
しかし燃は何度か、淘子が淮陽の背中を見つめる時の深い恋心に満ちた表情を目撃していた。
「彼は高嶺の花の大スターであるだけでなく、実力のある会社社長でもあるわ。私みたいな小さなアシスタントと彼の間には雲泥の差があって、私は彼に釣り合わないわ。
それに私は彼のことが好きじゃないの。今は仕事に集中したいだけで、他のことは考えたくないわ。橋本社長、私はもうあなたと田中将軍のことについて詮索しないから、あなたも私をからかわないでね」淘子はそう言って立ち上がった。
「淘子、あなたは仕事熱心で能力も優れていて、とても素晴らしい女の子よ。自分を過小評価しないで。もし何か事情があるなら、私に話してみて。私が解決できるかもしれないわ。もし解決できれば、あなたは後顧の憂いなく、高橋淮陽と...」
「社長、私が淮陽を受け入れないのは、単純に彼に対して何も感じないからです。社長が何でも知り得る立場にあることは分かっていますが、どうか私のことを調査しないでください」淘子は懇願するような目で燃を見つめた。
「実は淮陽が一年前に私に、あなたの過去を調べるべきかと尋ねてきたの。私は彼に、プライバシーを調査することはその人への不敬だと言ったわ。
あなたが話したくないということは、彼に対してまだ警戒心を解いていないということ。彼があなたに愛情を注ぎ、安心感を与えれば、自然とあなたは彼を受け入れられない理由を話すようになるわ。
これはあなたと彼の問題だから、私は口出ししないわ。あなたが他人に知られたくないことを、私が密かに調査することもないわ」
淘子は燃に感謝と理解に満ちた笑顔を向けた。「ありがとう、社長!」
少し力なく歩き去る淘子の背中を見て、燃の瞳は複雑な色を帯びた。