第370章 私を恋しく思った?

「時潤、出張から帰国したの?」

この一年余り、彼女と温井時潤は頻繁に会うことはなかったが、時潤は重要な事があれば彼女に相談していた。

海外出張や国内出張の際も、彼が二人のために設計した専用のチャットアプリで彼女に一言知らせていた。

一週間前、時潤はY国で開催される青年科学技術フォーラム交流サミットに出席するために出国していた。

「帰ってきたよ。今、君が番組収録している地下駐車場にいるんだ。一緒に夕食でも食べながら、詩葉の様子を聞きたくて。詩葉は呼んでいないよ」時潤の爽やかな声が携帯から聞こえてきた。

橋本燃は時潤が彼女が温井詩葉に腹を立てているのではないかと心配して、詩葉を呼ばなかったのだと理解した。

「大丈夫よ、一緒に呼んでも。今の彼女は私に何もできないわ」

「へぇ?初日から我慢できずに銃口に飛び込んできたのか?」

「彼女の頬を何発か叩いたけど、心配してる?」

「そんなはずないだろう。むしろ人としての道を教えてくれてありがとう。君の苦労に感謝して、今夜は特別に一品多く注文することを許可しよう」

時潤のユーモアのある言葉に、燃は会心の笑みを浮かべた。「じゃあ待っていて、すぐに行くわ!」

燃が休憩室を出たとき、ちょうど木村凡も休憩室から出てきたので、二人は一緒に歩き始めた。

「疲れた?串焼きでも食べて一杯やらない?リフレッシュできるわよ」凡は笑顔で燃を見つめた。

すでに30代半ばだが、凡は気品があり若々しく見え、接してみると彼女がとても純粋で面白い人だということがわかる。

燃は彼女の精神年齢は最大でも20歳くらいだろうと思った!

今日の番組収録中、凡はいつも予想外のいたずらで彼女を驚かせていたからだ。

一日を通して、燃は凡姉さんのことがとても気に入った。

「今日はダメなの。友達が出張から帰ってきて、食事に誘ってくれたから。明日ならいいわよ!」

「彼氏?」凡は意味深な視線で尋ねた。

「彼氏じゃ…」

後の言葉は、エレベーターのドアが開き、ガラスのドア脇に寄りかかる黒いスーツ姿の、並外れた雰囲気を持つ男性を見た瞬間に詰まった。

燃の心臓は制御不能に激しく鼓動し始めた。

恋人との別れと再会の喜びは、こんなにも心を揺さぶるものなのだと実感した。

「彼氏じゃないって言ってたけど、この男性は誰?」凡は冗談めかして言った。