第382章 田中さんの素晴らしい自制心

事前に備えがあったため、高橋暖香が最初に入れた資料は、後で高橋修哲の部下によって田中黙が調査した別の資料に差し替えられた。

それらの資料は法務司に関するもので、高橋修哲の部下である一人の科長の犯罪記録だった。

その人物は山田家が法務司に送り込んで高橋修哲を監視するために配置した人間だった。

検察院の人々が高橋修哲の金庫からその資料を発見したことは、修哲にとって罰どころか、むしろ部下の犯罪証拠を密かに収集していたとして上層部から称賛を受けることになった。

その科長は犯罪組織の人間から多額の金銭で買収され、組織のボスの罪状を改ざんして無罪放免にしようと密かに画策していたのだ。

もしその改ざんが成功し、ボスが釈放されていたら、社会への危害は計り知れないものになっていただろう。

林田隼人と高橋暖香の死によって、その後の調査の糸は途切れたが、裏で密かに火をつけ、高橋家の悲劇の導火線となった原因もこれで完全に消えた。

高橋家の父子四人は、これからは余計な心配なく事業に専念できるようになった。

この一件で最も不当な扱いを受けた人物は高橋修哲だった。

橋本燃は彼を心配し、事の真相を高橋思斉に話さないよう説得した。

彼らには思斉が彼らを拒絶しないようにする方法があった。

しかし修哲は燃の言葉に耳を貸さず、すべての真実を思斉に話すことを選んだ。それは思斉が今後田中黙を困らせないようにするためだった。

真実を知った思斉は、この数日間、黙をお茶くみや掃除係として使い、様々な嫌がらせをしたことを思い出した。

特に自分の父が燃を暗殺しようとしたことを知り、言葉にできないほど罪悪感を抱いた。

彼は燃が彼らの幸せで仲の良かった家庭を壊したことを憎んでいたが、燃に手を下そうとは思ったこともなかった。

せいぜい燃との関係を断ち切り、帝都から遠ざけ、自分の前に現れないようにするだけだった。

思斉はわざわざ自ら料理を作り、燃と黙を家に招いて食事をし、きちんとした態度で燃と黙に謝罪した。

これにより、燃と高橋家の恨みや葛藤は完全に解消され、叔父と三人のいとこから心からの愛情と尊敬を得ることができた。

その夜、父子四人は酔っ払って、それぞれが指で黙の顔を指さした。