橋本燃は個室に戻り、木村凡と高橋経緯の二人とさらに数曲歌った後、三人は立ち上がって店を出た。
不死の夜を出ると、橋本燃は自分の車の前に白いシャツを着た背の高い男性が立っているのを見た。彼は片手に携帯電話を持って通話し、もう片方の手にはタバコを挟んでいた。一服吸うと、濃い煙が彼の薄い唇から漏れ出し、美しい煙の輪を吹き出した。
「今日はあなたの家の犬のエサを食べなくて済むと思ったのに、この田中黙ブランドの犬のエサはやっぱり遅れてでも届くのね。たぶんあなたの彼氏があまりにもハンサムだからでしょう。
私はタバコの匂いが大嫌いなのに、あなたの彼氏が吸っているのを見ると、すごく男らしく感じるわ!」木村凡は小さく笑いながら言った。
「私も彼がタバコを吸っているときは特に男らしいと思う!」橋本燃は少しも謙虚さを見せずに言った。
「うわ、気持ち悪い」木村凡は嫌悪感を装って言った。「若いくせに、少しも謙虚さを知らないなんて、本当に自己陶酔的ね。じゃあね、また明日!」
木村凡と高橋経緯の車は別の場所に停めてあった。橋本燃は二人に手を振って別れを告げた後、嬉しそうに蝶のように田中黙の方へ走っていった。
木村凡は橋本燃が愛する人へと駆けていく様子を見て、目に羨ましさの色を浮かべた。
「やっぱり幸せに向かって走る女性は、全身が幸せのオーラに包まれているわね。空気までも甘い幸せの香りで満ちている。」
高橋経緯もこの光景を見つめ、漆黒の瞳の奥に一瞬異彩が走った。
これは確かに彼が見た中で最も幸せな光景だった。
「どうしてこんなに早く出てきたの?」田中黙は橋本燃を抱きしめ、愛情を込めて彼女の額にキスをした。
「いつ来たの?来たなら一言教えてくれればよかったのに。」
「電話を切ったらすぐに来たんだ。君と友達の食事会を邪魔したくなかったんだよ。楽しかった?」
「最初は楽しかったけど、二匹のハエに台無しにされて少し不愉快になったわ。」
六月初めは蚊やハエが活発になる時期だが、このような場所にハエがいるはずはない。
田中黙は橋本燃の言う「ハエ」が単なるハエではないことを理解し、紳士的にドアを開けた。
「車の中で話そう!」
橋本燃は車に乗り込み、田中黙は助手席に座り、二人は車で出発した。