039 子供に飴をあげる

「……」

江口燃は初めて自分の聴力に問題があるのではないかと疑った。

部下たちはさらに「マジかよ」と声を上げた。

この女子は燃さんと喧嘩するつもりなのか?

彼らの燃さんが去年、市内のテコンドー大会で優勝したことを知らないのか?

「冗談だろ、転校生——」江口燃は唇を舐めた。「本気なのか?」

勝山子衿はあくびをしながら答えた。「うん、終わったら寝るつもり」

部下たちは二度目の沈黙に包まれた。

「これって燃さんを挑発してるんじゃね?」

「自信を持って、『じゃね』は消せ」

「いいだろう」燃は笑いながら、学生服の上着を脱いで近くの部下に投げた。「お前と戦ってやる。後で泣くなよ」

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3分後。

燃は地面に横たわり、無表情で天井を見つめていた。順風満帆だった人生で初めての大きな打撃を受けていた。

傍らでは、子衿が地面から鞄を拾い上げ、彼を通り過ぎて中へと歩いていった。

誰も止める勇気はなかった。

部下たちは女の子がゆっくりと空いている席に向かい、鞄から枕を取り出してテーブルの上に置き、そのまま頭を下ろして眠りにつく様子を見ていた。体には毛布まで掛けていた。

「……」

装備はなかなか充実している。

「これって燃さんの追い出し作戦の失敗?」

「さっきの彼女の身のこなし見た?多分本気を出してなかったと思うぜ」

「正直言って、ちょっとカッコよかった」

実際に見なければ、誰が江口燃が女の子に負けたなんて信じるだろうか?

「大丈夫だよ、燃さん」部下たちは慰めた。「燃さんがダメなら、羽田さんがいるじゃないか。今すぐ羽田さんに電話して、戻ってきてもらおう。絶対に彼女を追い出せるはずだ」

「燃さん安心して、燃さんができないことでも、羽田さんならできるよ」

燃は歯を食いしばった。「消えろ!」

部下たちは素早く立ち去った。

その中の一人が携帯を握りしめ、急いで言った。「羽田さん、早く戻ってきて、大変なことになったんだ……」

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子衿は昼まで一気に寝てしまった。

教室はガランとしていて、人々は皆出て行っていた。校長は今日、特別に19組の授業を1コマ休みにしていた。先生までもが無実の災難に巻き込まれることを恐れてのことだった。

彼女は頭をこすりながら、携帯を開いた。ロック画面には5分前に届いたメッセージが表示されていた。