伊藤雲深は心理師と知り合って数年になるが、彼がこのような表情を見せるのは初めてだった。
NOK催眠師ランキングに名を連ねるハンターであり、心理学者でもある彼は、表情のコントロールにおいて絶対に隙がなかった。
結局のところ、人間のマイクロエクスプレッションは、たとえ0.5秒だけ現れたとしても、催眠術師には内心の考えが直接読み取れるのだ。
催眠術師が他人を深い催眠状態に導くとき、人を殺すことさえ容易にできる。
雲深は眉を上げ、怠惰な口調で言った。「どんな人?」
心理師は軽くため息をついた。「私の患者の一人だよ。彼女とはしばらく会っていないから、今どうしているか分からないんだ」
彼はまた一瞬黙り、首を振った。明らかにこれ以上話したくない様子で、話題を変えた。
「彼女は特殊なケースだったから、薬は処方しなかった」と心理師は言った。「精神や心理に関わる薬物は、副作用も小さくないからね」
雲深は淡々と「ふむ」と返した。
「でも——」心理師は少し間を置いて、「彼女は弟の治療を頼んできた」
雲深は顔を上げ、後ろに体を預けた。「何と答えた?」
「引き受けたよ」心理師は微笑んだ。「でも君のためじゃなく、彼女自身のためだ。信じられないかもしれないが、彼女のマイクロエクスプレッションのコントロール能力は、私以上だったよ」
雲深は相変わらず驚いた表情を見せず、ただ笑った。「僕の小さな友達が本当に凄いってことだね、君をも感服させるなんて」
NOKフォーラムで名を馳せるハンターたち、特に各ランキングのトップ3に入る者たちは、お金を積んでも動かない。
彼らの足取りは、まさに神出鬼没だ。
だから彼の懸賞金が10億米ドルであっても、トップ3のハンターたちは動じなかった。
3位と4位は、たった一つの順位差だが、その実力差は計り知れない。
ましてや、各ランキングの1位となれば言うまでもない。
催眠術師ランキングの1位は姿を現したこともなく、噂だけが存在する。
心理師はうなずいた。「今、催眠術が必要かい?」
「いや」雲深は立ち上がり、怠けた様子で言った。「僕の小さな友達と一緒にいると気分が良くなるし、回復も早い。君の催眠術も、僕のお金も節約できるよ」
「……」
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翌日。
勝山子衿は温井奈海のために1時間の授業を休ませ、心理相談室へ連れて行った。