188 伊藤様も正体を現す、大物の登場【3更】

カウンターの女性は完全に呆然としてしまい、試しに尋ねた。「七郎様を出て行かせるということですか?」

「そう、彼を出て行かせて」万代真奈子はダイヤモンドのネックレスを弄びながら、淡々とした口調で言った。どこか気のない様子に聞こえる。「私にはそれくらいの権利があると思うわ」

彼女が伊藤家に嫁いだのは、美しく言えば、身分を下げての結婚だった。

伊藤雲深はおろか、婚約が決まっていなければ、彼女は伊藤羽含にさえ嫁ぐことはなかっただろう。

万代家は帝都の名門で、百年の歴史を持つ。

たとえ伊藤家が四大財閥の筆頭だとしても、万代家には遠く及ばない。

もし祖父が伊藤家の老人の頼みを聞かなければ、彼女は東京に嫁ぐ必要すらなかった。

真奈子は万代本家の一族でこの世代唯一の娘であり、上に四人の兄がいて、幼い頃から甘やかされて育った。

彼女はずっと自分の結婚は自分で決めたいと思っていた。本に書かれているようなロマンチックな恋愛をしたかった。

しかし結局、それらは全て崩れ去った。

一枚の婚約書で、彼女が嫁ぐことになった相手は、遊び人の放蕩息子だった。

事が決まった後、真奈子は万代翁に会いに行くのではなく、伊藤羽含に会いに行った。

伊藤雲深が彼女を娶りたいなら、彼にその資格があるかどうかを見極める必要があった。

彼女は伊藤羽含に嫁ぐことを選び、雲深を東京の笑い者に、人々の噂の種にしようとした。

これが代償だった。

しかし結婚後の二年間で、真奈子は羽含の良さに気づき、長い時間をかけて愛情が芽生えた。

伊藤のご隠居が放蕩息子を偏愛していることを知ったとき、彼女は雲深に対して本当に良い顔をしなかった。

伊藤のご隠居が目が見えなくなったと思わない人がいるだろうか?

真奈子は振り向き、軽く顎を上げた。「まだ行かないの?」

カウンターの女性は少し損得を考えただけで、すぐに決断を下した。

伊藤雲深という東京一の遊び人は、伊藤のご隠居の寵愛を受けているが、実際には何の実権も持っていない。

しかし伊藤羽含は違う。

羽含は伊藤家の嫡長孫で、将来は伊藤集団を継ぐ立場にある。

それだけでなく、彼自身の能力も優れており、伊藤家の力を借りずとも、すでに帝都のビジネス界で頭角を現していた。