松本家は帝都の最高級の名門であり、東京の家柄はおろか、帝都の他の家柄も松本家には及ばない。
また、松本鶴卿がいるからこそ、松本家は黒白はっきりとした評判を保っている。
同世代の他の令嬢や若様と同様に、松本沈舟は幼い頃から精鋭教育を受けてきた。
彼は傲慢な人間ではなく、松本家の息子だからといって自分が人より優れていると思うこともない。
この点は非常に貴重だ。
沈舟が唯一嫌うのは、価値観の歪んだ人間だ。
偶然にも、勝山子衿はその一人だった。
彼は子衿に対して特に好奇心を持っておらず、わざわざ調査するのは時間の無駄だと思っていた。
しかし鈴木知晩があそこまで言うなら、明らかに好感の持てる人物ではないのだろう。
沈舟のこの言葉を聞いて、知晩は素早く頭を下げ、口元の笑みを抑えた。
鈴木夫人は特に表情を変えず、キッチンへ行って数杯の生絞りジュースを持ってきた。
そして「パン」という音と共に、鈴木のご老人はスマホをテーブルの上に置き、顔を上げた。
沈舟はただ頷いただけだった。「失礼します」
「その通り、確かに必要ない」鈴木のご老人は沈舟を一瞥し、表情からは喜怒を読み取れないまま淡々と言った。「子衿は誰でも会えるような人間ではない。そんなことを言うなら、食事が終わったらここから出て行ってくれ」
この言葉に、知晩と鈴木夫人は驚愕した。
鈴木夫人は思わず口走った。「ご老人!」
松本家とはどんな存在か?
四大名門を合わせても敵わないほどの家柄だ!
そして沈舟は、この世代の後継者候補の一人なのだ。
将来、松本鶴卿から松本家を引き継ぐ可能性が非常に高い。
鈴木のご老人がこんなことを言えば、鈴木家と松本家の友好関係を断ち切ることになるではないか?
知晩は爪が手のひらに食い込むほど握りしめ、唇を噛んだ。
彼女は本当に予想していなかった。鈴木のご老人の心の中で、子衿の重要性が鈴木家を超えていることを。
松本家を敵に回すリスクを冒してまで、子衿を守ろうとするなんて。
えこひいきではないと言えるだろうか?
「あなたは外部の人間で、ここは私の家だということを知っておきなさい」鈴木のご老人は鈴木夫人を無視し、怒りを見せることもなく言った。「私の孫娘が来ることはあなたには関係ない。そんな表情を見せる必要はない。会いたくないなら、出て行きなさい」