この聞き覚えのある名前と場所に、松本夫人の足が急に止まった。
彼女は眉をひそめ、どこで「ジーチン」というこの二文字の音を聞いたことがあるのか考え始めた。
松本承はすでに中庭に入っていて、数秒のうちに、その背中さえも見えなくなっていた。
呼ばれていない以上、夫人もここに長居する勇気はなかった。
考える時間もなく、彼女は急いでその場を離れた。
自分の部屋に戻ってから、夫人はしばらく考え続け、ようやく思い出した。
東京の勝山家が養女として引き取った子、その名前がまさにこの二文字の音ではなかったか?
しかし、一介の養女の名前が、松本承の口から出るだろうか?
聞いた感じでは、松本鶴卿が自ら会いに行くようだった。
夫人はそんな可能性はまったくないと思った。
しかし彼女はいつも慎重で、どんな小さな動きも見逃さなかった。
長い間考えた後、夫人は東京へ電話をかけた。
彼女が尋ねたのは勝山家ではなく、直接松本沈舟だった。
結局、彼女が欲しいのは正確な情報だった。
もし勝山家が誇張していたら、判断ができなくなる。
「勝山子衿」という名前を聞いた瞬間、沈舟はまず一瞬戸惑った。
「彼女?」その後、彼の口調はずっと冷たくなった。「彼女自身には何もない。彼女の自信は鈴木家と伊藤家から来ている。」
鈴木家については、夫人はどういう事情か知っていた。
子衿は勝山家の養女だが、鈴木のご老人は彼女にとても優しかった。
他の家族の事情については、彼女はいつも気にかける心がなかった。
しかし伊藤家?
夫人は鶴卿が若い頃、東京に一時期滞在し、伊藤家と少し交流があったことを思い出した。
考えていると、沈舟がまた話し始めた。「伊藤家には何人か若旦那がいて、その中で七番目の息子は放蕩息子だが、伊藤のご隠居に最も可愛がられているので、かなり傲慢な性格だ。」
彼が帝都から東京に来たことは秘密ではなく、すでに東京の上流社会で広まっていた。
沈舟は社交が好きではなかったが、拒絶もしなかったので、多くの令嬢や若旦那と知り合った。
自然と世紀モールで起きたあの事件についても耳にしていた。
自分の兄や兄嫁にまで好き勝手に命令できるとは、確かに伊藤のご隠居に甘やかされすぎていた。
そんな人物に、彼は興味がなかった。
子衿についても、沈舟の感想は同じだった。